第22話 尋問のよう

 洋輝は、本当にこのメールに心当たりがないらしい。

 その余りにも正直な様子に、心から安堵する自分が居た。嘘をついているとはとても思えない夫は、頭を傾げながらも、それ以上どうしていいのかわからずスマホの画面を暗くした。洋輝はもともと余りスマホをいじらない。必要なツールだから持っているけれど、それ以上でもそれ以下でもない。携帯のゲームなども、ほとんどやらないのだから。

 では、次だ。

 バッグの奥底に潜ませておいた、例の口紅。ピンクプラムの、若い女性にぴったりな今年の新色だ。使用済みのそれをバッグから取り出して見せる。

「・・・?化粧品?それが、どうかしたのか?」

 もっともな疑問に、一瞬だけ史織の口角が上がりそうになった。中身を出して発色を見せても、夫にこれと言った反応はない。不思議そうに見て、妻の次の言葉を待っている。

「この口紅はわたしのじゃないの。」

「へー、そうなの?友達の?」

 お気楽な会話を続ける夫に、少し躊躇ってから思い切って息を吸って言った。

「貴方の上着のポケットから出てきたんだよ。・・・あんまりびっくりして、そのまましまっちゃったんだけど、どうして洋輝の上着に口紅なんか入ってたの?」

 そこで洋輝の表情が変わる。

 けれど、その驚愕の表情は、後ろめたい何かというよりは、純粋に驚きとある種の恐怖を覚えたかのような動揺だ。

「えっ・・・マジで?・・・ホントに?ホント?」

「うん。」

「うーん・・・化粧品とか身近にないからなぁ。強いて言えば史織のものくらいだし。あ、俺のじゃないよ?ホントに。そういう趣味ないからね?」

「そういう趣味がないのは知ってる。似合いそうにもないしね。」

 ほんの少し、二人で笑えた。安堵した瞬間だった。

 ここまでの夫の反応は全て史織にとって安心材料ばかりだった。どう考えても、不倫とか浮気の気配はない。洋輝はお調子者な部分はあっても、基本的に正直で素直なのだ。嘘をつくことはまずないし、嘘をつけば必ずバレるだろう。

 テーブルの上に置いたスマホの隣に口紅を並べ、再びハンドバッグの中へ手を入れる。

「まだ、なんかあんの?」

 ちょっと呆れたような言い方も、うんざりしていると言うよりはむしろ感心しているかのような響きだ。

 だが、史織の白い指がつまんだ金色のそれを見た瞬間、わずかに洋輝の目が見開いた。金色の丸い小さなピアス。史織の耳にはピアス穴は開いていない。つまりは史織のものではない装飾品だ。

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