第20話 かくしごと

「だからウチを含めて一階の世帯全部、夕方に鍵の業者が来てくれて総取っ替えしていったんだよ。10時過ぎてもガチャガチャやってたけどさ、でも、安心の方が大事だから、有り難いと思った。管理人さんが、すぐに呼んでくれてね。警察の人もその方がいいって言ってくれてさ。事件は窃盗じゃなくて不法侵入って形になるんじゃないかって言ってた。特に壊れたものもなかったし。史織も見てただろ、足跡が廊下まで付いてたけど結局それだけで、室内には入った様子も無くて何一つ動いてもいなかったんだ。入ってすぐに出てったんだろうなって。そもそも、管理人だってマスターキーが無ければすぐに気付くのに、警察が来るまで気付かなかったんだよ。だから、鍵を取って何軒か家の中に入っては見たけど何も盗らず逃げたんじゃないかって話になったんだ。・・・だから、そもそもなんで侵入したのかよくわからなくて気持ち悪いんだけどさ。」

 夫の話を呆然と聞いていた。

 自分が気を失っている間にあったやりとりをかいつまんで聞かせてくれているのだろう。そう言われてみればおぼろげに思い出してきた。婦人警官が付き添ってくれて、一緒に部屋に入ったような気がする。

「防犯カメラを確認してくれてるんだけど、犯人・・・って言っていいのかな、侵入者らしき人は、男としては小柄な人っぽかった。顔とか完全に隠れててちょっと特定が難しいらしいって。・・・なんかさ、あんなに小柄なのにどうしてあんなに靴跡がでっかいんだろって不思議だったよ。」

「そう、なんだ・・・。」

 相槌を打つのもやっとである。

 耳に入ってくる情報を、どこか人ごとのように聞いてしまっている自分がいる。人ごとではなく自分の家で起こったことなのだから、真剣に向き合わなくてはと自分を叱咤するけれど、やっぱりどこか上の空だった。

 麻痺しているのかもしれない。

「・・・史織?大丈夫?聞ける?」

 ぼんやりしている様子が心配になったのだろう。妻を気遣う洋輝は、とても優しかった。

「俺に隠してること、何?・・・なんか、あったの?」

 その言葉に、なんだか失笑が出てしまいそうになる。

 疑っていたのは史織の方だと言うのに。まるで、史織が疑われるようなことをしていて、洋輝が疑心暗鬼になっているみたいだった。逆ではないか。

「洋輝こそ、わたしに隠してることあるんじゃないの?」

 自分でも驚くほど、その疑問が史織の口からするっと出た。

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