第19話 事件性

 ぽろぽろと涙を溢して悲しげに泣く妻を、夫はぎゅっと抱きしめた。

「怖かったよな。・・・災難だった。少し話せるか?」

 囁くように優しく言う。

 史織は力なく頷いた。頷くしか無かった。

 顔を拭って、身を離す。傍らの峻也を起こさないようにそっとベッドから起き上がる。

「今、何時?」

「2時かな。・・・歩けるかい?」

「うん。」

 よろよろと立ち上がった史織は、洋輝に手を貸してもらいながら歩き出して寝室を出た。

 真っ暗だったダイニングに明かりが点き、夫に促されるままに史織が椅子に座った。洋輝がキッチンの方へ歩いていき、コップに水を入れて持ってきてくれる。

「ありがとう。・・・喉乾いてたんだな、わたし。凄く美味しい。」

 安堵したように呟いて少しだけ笑った。

 その、うっすらであっても笑ってくれた顔が見られて嬉しかったのか。洋輝も妻の隣の椅子に座る。そして、はじめはぽつりぽつりと、やがて堰を切ったように話し始めた。

「なんかさ、史織ちょっと痩せた?この頃、なんか顔色が優れないよな?気になってたんだ。聞こう聞こうと思ってるうちに今回みたいなことになっちゃって・・・。何か悩んでたんだろ?そこに持ってきて空き巣に入られるなんて、そりゃ目眩くらい起こすよな。俺、役に立たなくって、本当ごめん。自分のことでいっぱいいっぱいで、気遣ってやる余裕がなかったんだな。」

「洋輝・・・。」

「俺になにか言いたいこととかあるんだろ?なんか隠し事あんのかな?俺、どんなことでも史織の言うことをちゃんと理解して受け入れるつもりでいるから、話してくれないか?」

「ん・・・、でも、先に今日の・・・あ、昨日の?事とか先に聞かせてくれるかな?なんか何も知らないままって怖いし。」

「え、警察の人がいろいろ話してくれたじゃん。覚えてないの?」

「・・・覚えてない。」

「そっか。・・・そんなにもショックだったんだ。あのね、実は、このマンションの一階はうちの他に6軒あるだろ。で、うち以外にもさ3軒空き巣入られてたらしくてね。管理人が不在の時に、マスターキーを盗んだらしい犯人が片っ端から侵入したみたいなんだけどね、どの部屋も何も盗まれていなかったって。」

「盗まれてない?うちも?」

「うん。何も盗られてなかったみたい。俺が確認した限り、だけど。でも、史織も一緒にいたんだけど、覚えてない?」

 完全に記憶から抜け落ちている。

 動転していたから、警察が来たあとのことは本当に何も覚えていないのだ。まして、洋輝が戻ってきた後は、意識が有りながら気絶したも同然だったらしい。

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