第16話 手紙

 ゆっくりと立ち上がってからもう一度郵便受けへ手を伸ばした。

 心を落ち着けて、深呼吸をする。

 大丈夫、ただの封筒だ。別に爆弾が入っているわけじゃない。

 震える手で、封を開いた。爪の先で、簡単に破れて開く。あっけないほどに。

 薄い、A4ほどの、コピー用紙みたいな白い紙に。


  ”先週は楽しかったね。君と過ごした夜は本当に刺激的だ。すぐにでも抱きしめたい。次はもっと長く一緒にいたいね。” 

  

 見覚えの有る文章。


 そして、そのすぐ下にカラー写真。


 一見誰なのかはわからなかった。顔が写っていないから。けれど、その肌色が多い写真に、見覚えが有るものが写っていた。意外と筋肉質で、それでいて筋張った首や肩。そして、その左肩辺りにある大きな傷跡は、史織が知る限り洋輝にしかないものだ。ちょっと歪つな星型のような傷跡は、夫が少年の頃に負ったものだと聞いている。左側を上に寝ている身体は半裸、もしくは全裸なのか。上腕の下の部分からは派手な毛布に覆われていてよくわからない。

 そして、寝そべっているその人影のすぐ脇に、白いベビードールのようなものを纏った女性の身体が写っている。こちらも顔は見切れており、首から下しかない。おそらくは、この女性が自撮りで撮影したものとも考えられるくらいの距離感だった。

 客観的に見て、どこぞのラブホテルの室内で撮影したものだろう。やけに明るいのは、室内なのでフラッシュ撮影になっているからか。画面には毛布と人体が写っているだけで、他の情報を得られそうなものは見当たらなかった。

 

 綺麗に三つ折りにされたその用紙が、史織の手からひらひらと落ちる。


 顔こそ写っていないけれど、ここに写っているのは間違いなく洋輝だ。肩の傷跡は間違いない証拠と言える。そして、自撮りしているように見える女性も顔は写っていないが、こんなあられもない姿でいるということは、二人の関係の深さが容易に想像できる。


 かたかたと震えながら、再びその場にしゃがみこんで用紙に触れた史織には、さらに気がついたことが有る。写真の下に、ピンク色のマーカーで絡み合ったハートマークが二つと、撮影されたと思われる日時が手書きで書き込まれていた。

 


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る