第14話 学校行事

 洋輝の両親は彼の兄の赴任先である海外在住である。だから、史織は義両親や義兄とは結婚式の時と彼らが帰国する正月にしか会ったことがない。

 そして、史織の親は新幹線で三時間程かけて会いに行く距離に姉世帯と同居で暮らしていた。

 二人はどちらも両親を頼れない身の上だ。強いて言うならば史織の親のほうが国内なだけ近いと言えば近いが、援助を頼めるかと言えばそうでもない。史織の姉は6歳年長で5人の子宝に恵まれている。その大変な子育てと仕事でとてもじゃないが妹の手助けなど無理だ。親も姉の手助けでいっぱいいっぱいだろう。

 互いに何か有っても身を寄せる所はない。文字通り、洋輝と史織は二人きりで助け合って家庭を築いていくしか無いのだ。峻也が産まれたときだって、勿論どちらかの親が手伝いに来るとか、あるいは里帰りしたとか、そのようなことは一切無かった。結婚して10年、ここまで二人で乗り切ってきたのだ。

 夫婦であり戦友のような存在とも言える洋輝と史織なのだから、こんなことで二人の絆が壊れるとは思いたくなかった。



 その後、一週間ほどは何事も無く過ぎた。峻也の小学校から運動会についてのお知らせが来て、そのプリントを眺めながら史織はコーヒーを飲んでいた。

「6月ともなると、もう暑いわよね・・・。」

 峻也の小学校は一学期に運動会が行われる。ニ学期の行事が少しでも余裕を持って行えるようにするための配慮なのだそうだ。

 夫の洋輝が今息子と一緒に入浴している。早く帰宅できた日には、なるべくそうやって子供の世話を焼いてくれている人なのだ。楽しそうに浴室で二人の話し声がするのを遠くに聞きながら、僅かな隙間時間のコーヒーブレイクを楽しんでいた。

「上がったよー。」

 そんな隙間時間も長くは続かない。二人が風呂を上がれば、峻也の着替えや支度を手伝わなくてはならない母親は、カップをテーブルの上にそっと置いた。

「綺麗に洗ってもらえた?楽しかったのかな。」

 子供の髪の毛をタオルでしっかり拭きながら、史織は峻也に尋ねる。

「うん。面白かった。おならダンスした。」

 峻也は手間取りながらも、自分でパジャマのボタンを留めている。

「ダンスしたの?それは楽しかったわね。」

「運動会で、やるんだよ。父さん来てくれるって言ってたから、いっぱりお尻フリフリして笑わせてやるんだ。」

「あらそう。お父さん運動会来られるって約束してくれたの。よかったわね。」

 脱衣場での母子の会話が浴室の父親に聞こえたのか、ドアが少しだけ開いた。湯気と夫の声が洩れて来る。

「まだ日程知らないけど、絶対に見に行くよ。学校から案内来た?」

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