第13話 思い
「まだ・・・。」
「そうだよね。問い詰めてたら、こんなところで足踏みしてないかー。」
割り箸を綺麗に割って味噌汁に箸先を入れた鶴田は、一口飲んでからふー、と息をついた。
同じように、史織も味噌汁に手を付けるが彼女のようなため息は出ない。
鶴田のため息は美味しいと言っているため息だ。史織は、正直に言って味などよくわからなかった。食べなければ身体が保たないと知っているから口に入れているだけである。
「仮にさ、ダンナさんが真っ黒だったらどうするの?」
「えっ・・・!?」
鶴田の質問は直球だ。
そして、その答えに窮している史織を気の毒そうに見ている。
そんなこと考えたくなかった。思えば、史織の行動も思考も夫が黒ではないと思いたいがためのそれだった。潔白である証明を探していたようなものだ。
だからこそ、問い詰めることなんて出来なかったのだ。
そして、離婚経験者の鶴田には、そんな史織の気持ちが痛いほど理解できた。
夫の不貞など信じたくない。何かの間違いであって欲しい。ただの誤解であって欲しい。そう思っているから、先へ進めないのだ。
「あのね。これは経験者の戯言だと思って聞いてね。物事がどっちの方向へ転んでも大丈夫なように、あらゆる想定をしておいた方がいいよ。それでも、自分の想像もつかないような成り行きになったりするから。」
びっくりしたような顔で見上げてくる史織に、鶴田は優しく笑いかけた。
「須永さんは大丈夫だよ。だって、シングルのわたしと同じくらい稼げてるんだもん。ちゃんと一人でも生きていける。いつだって、あなた自身の人生なんだから、自分で決めて生きていけるよ。」
品出しの補充をしながら、ぼんやりと考えている。
単純作業だと考え事が出来るので有難かった。売上過多で欠品にならないように、商品を棚から足していく。
鶴田の言ってくれた言葉が頭の中から離れなかった。
夫が黒だったら。
今の段階では黒と言える要素は余り見当たらないけれど、ゼロでもない。
彼女のように離婚までする勇気があるのかと思えば、まだそこまでのことは考えられない。
だって夫の洋輝の様子は本当に普通で。優しくていい夫でいい父親だから。
新婚当初のように情熱的な恋愛感情が有るのかと言われたら、素直に肯定できないけれど、好意は間違いなくある。
そうだ。史織は。ちゃんと洋輝が好きなのだ。
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