第12話 相談
洋輝が言う通り、いくら叩いてもホコリは出ない。スマホを見ようが財布を覗こうが、あやしいものは全く無かった。
それなら何故、あの口紅とピアスは史織に気付かれたのだろう。そして、あのメールも。逆にそれがおかしいとさえ思う。洋輝は信用してもいいと思えるのに。
発注のためにタブレットを充電器から取り外した。その拍子に、机の上にあったファイルを床の上に落としてしまう。
「・・・あ〜」
なんとも情けない声を上げて、史織はその場にしゃがみこんだ。分厚いファイルは、デジタル化がいまだ進まない本部からの指示書類が溜まったもので、とても重たい。管理室には史織の他に同僚の鶴田の姿が見えるだけで、店長も副店長もいなかった。パソコンの画面に見入っている同僚に手を貸してくれとは言えず、史織はため息をつく。
「どしたの、須永さん。こんなん落っことすなんて迂闊だね。」
察してくれたのか鶴田が椅子から立ち上がり、ファイルを持ち上げるのを手伝ってくれた。側面に振られた番号通りに並べていく。
「うん、まあ、ちょっと。」
言葉を濁して口を噤むけれど、本当は誰かに吐き出したくてしょうがない。
並べ終わると、よっこらしょ、と掛け声をかけて史織は立ち上がった。
「ね、社食いっしょに行こう?その発注済んだらお昼でしょ?」
「・・・そうだね、一緒に行こ。終わったら声かけるわ。」
鶴田は、このところ浮かない顔で仕事をしている同僚のことをずっと気にかけてくれていたのだろう。それがわかるので史織も無碍に断ったりはしない。
二人は販売店の副部門長という立場だ。部門が違うだけで立場としてはほぼ同等。勤務年数も変わらない。中途採用の同期と言った感じか。
そして鶴田はシングルマザーだ。5年前に離婚しており、彼女には小学生の娘が二人いる。両親と同居して自宅から仕事場へ通ってきていた。
きさくで物事にこだわらないように見えるあっさりした女性だが、根は優しい。表面的には冷静だが、案外情に厚いタイプだと、史織は考えている。だから、史織のことも放っておけないと思ってくれたのだろう。
「うーん、それは多分やらかしたんじゃないのかな。」
鶴田の結論は単純明快だった。
「やらかした・・・のかな。」
社食の定食をテーブルの上に置いて、周囲をうかがうように席に着く史織。余り大声で話したくない、と思う半面、騒々しいので、会話を成り立たせるにはある程度の声量がいる。
「ご主人は、清廉潔白ってワケなの?でも、その割にはいろいろダダ漏れじゃん。口紅とかアクセとかさ。ちなみにそれ、問い詰めた?」
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