第11話 何を見られても

 史織は、この場で不安に思う根拠の全てをぶちまけようかと迷った。

 誤送信かと思われるメール。

 上着のポケットの口紅。

 車の中にあったピアス。

 トマトの苗。

 そして、今回の、息子の件。

 色々とおかしい。どこかおかしいとしか思えなかった。その不安を、夫に話して理解してもらいたい、分かち合いたいと思う半面。

 それをしたら何かが壊れる気がする。それは確信を持って言える。

 お好みの炭酸水を片手にテレビのプロ野球を見ている夫には、不倫をしているとか浮気をしているとか、そういう要素はまったく見当たらないのだ。今現在も、夫のスマホはリビングの片隅に有る充電器に刺さっている。余程巧妙に隠しているか、本当に何もないかいずれかだろう。あやしい点と言えば、外回り営業だから、会社の外にいる時は何をしているのかわからないという点くらいか。

「洋輝、まさかと思うけど。」

「あん?何?」

「わたしに言えないような隠し事とか、ないよね?」

「隠し事?」

 妻の声が少し震えていることに気がついたのか、ようやくテレビから視線を史織の方へ向ける。

「なんか、おかしなことが続くから、怖くなっちゃって・・・。」

 史織の声は震えているし、顔色も真っ白だ。

 夫がようやく立ち上がった。ダイニングにいる妻の方へ歩み寄ってくる。そして、優しく肩を抱いて、穏やかに言った。

「なんもないはずだよ。・・・まあ、昨日トイレのペーパー取り替えるの忘れたとか、そういうのは有るけど。史織が言ってるのってそんなんじゃないだろ。なんなら、俺のスマホとか全部見る?車の中とか、全部点検する?財布も見ていいよ?俺、なーんも後ろ暗いことないから。それで史織が安心するんなら、好きなようにして。」 

 飾り気のない言葉で、淡々とそう言ってくれた。

 特に気負った様子も気遣いな様子もない。それが、いかにもいつもの夫だ。これが史織の知っている洋輝なのだ。

「だよね。」

 ほんの少しだけ安堵した様子の妻が、夫の手に自分の手を重ねる。

「あ、そうだ。防犯カメラとかもチェックしといたら?俺は本当に何調べられても平気だから、気が済むまでやっていいよ。」

「うん、そうだよね。わたしも、ちょっと気が立ってるのかなぁ・・・。」

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