第10話 脳天気な夫
息子が夢中になっているそのキャラを、何故その女性が知っているのか。何故息子の気が引けると知っているのか。ただの偶然だろうか?いや、そんなはずはない。そもそも、赤の他人の小学生の男子の気を何故引かなければならないのか。知り合いでもないのに。
何故か、ぞっと怖気が走った。
見た目は可愛らしい、優しそうな女性だった。小奇麗に着飾った薄化粧のショートボブカットの、・・・そう、とてもじゃないが、小学生になど興味が有るようにはとても思えないような。彼女のような女性が興味を持つのは、どう考えても成人男性以上の年代だろうに。あくまで、それは史織の想像の範囲なのだから、断言は出来ないけれど、小学校の教員を目指していそうなタイプでもなければ、峻也と同じ年くらいの子供がいるようにも思えない。
史織は峻也の両手をぐっと握った。
「・・・知らない人には絶対についていっちゃ駄目。たとえ、お母さんの知り合いだって言われても、大好きなゲームをくれるって言っても、絶対駄目。」
「わかってるよ。いつも言われてるもん。ただ、ちょっとだけ見てただけなんだ。ついていったわけじゃないけど、気付いたら、手を掴まれてて、お母さんが心配するから、お店の人のところに行きましょうって言われたんだ。」
息子の言い方は、嘘や反抗心で言っているものではなかった。
もともと、正直な子なのだ。嘘は時々つくけれど下手で、すぐにバレる。
「俺、お母さんならあっちにいるから、って言ったんだけど。もういないよ、いなくなっちゃったって言われて・・・どうしていいかわからなくなって。」
そうして本当に母親を見失ってしまったのだろう。
「そっか・・・怖かったんだね。ごめんね、お母さんが峻也を見失っちゃったからね。怖い思いをさせてごめん。本当に、ごめん。」
眉をハの字にして困った顔をする息子に、史織は謝った。
もう絶対にこの手を離すまいと、強く心に決める。いつかは、自分から振り払っていくときが来るまでは。
「ってことがあったの。最近は物騒で、怖くて。」
洗ったお皿を拭きながら、リビングで寛ぐ夫に、スーパーでの話を聞かせた。
テレビでスポーツ観戦をしている洋輝は、うんうんと頷いている。
「でも、結局その人のおかげで峻也は戻ってきたんだろ。よかったじゃないか。」
「・・・そういうことじゃない。」
「えー、そういうことでしょ?無事に見つかって、峻也はその人がちゃんと連れてきてくれたんだから、めでたしじゃん?」
このウルトラ能天気な生き物は、妻の不安の要素が理解できないらしい。
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