第9話 気を引く
我が子の手を引いているのは、ショートボブの若い女性だった。史織よりも、少しばかり年下だろうか。タレ目の童顔は、可愛らしい部類だと思うけれど、何故か史織にはその笑顔に違和感を覚えた。
「峻也っ!勝手に歩き回っては駄目って・・・!すみません、ご迷惑をおかけしました。」
違和感を覚えつつも、息子を助けてくれた相手なのだから礼を尽くすべきだった。慌てて頭を下げる。
相手の女性は、繋いでいた手をそっと離してしゃがみこんだ。峻也の目線の高さに合わせて、優しく語りかける。
「お母さんいてよかったね。」
そう言われ、峻也はどこか怪訝そうに首を傾げている。
だが、すぐに母親の方へ歩み寄り、その足元に擦り寄った。息子の肩をしっかり抱いて、史織はもう一度頭を下げて礼を述べた。
カウンターの店員も一緒に頭を下げてお礼を言ってくれる。
「いいえ、大丈夫ですよ。それでは。」
簡単にそう答えた女性はすぐに踵を返して、店を出ていった。
その様子を呆然を見送ると、史織は店員にももう一度頭を下げてお礼を言う。それから峻也にも無理やり頭を下げさせた。
サービスカウンターから離れ、他の客の迷惑にならない場所を探す。あまり広くはないけれど、今は余り客がいないフードコートへ息子を連れて足を運んだ。
椅子に座らせて、正面から顔を見つめる。
「峻也。駄目だよ、お母さんから離れちゃ。心配したんだから。」
怒るのではなく諭すように言うと、
「ごめんなさい。」
息子は素直にそう言った。反省はしているようだ。
「無事に見つかって本当によかった。あの女の人が見つけてくれたんだ?」
峻也の手を引いてサービスカウンターまで連れてきてくれた女性を思い浮かべる。愛らしいけれど、どこか媚を含んだような表情が妙に印象に残っていた。
「・・・違うよ。」
ぽろりと、まるで溢れるように息子の口から出た。
「違う?」
「違うんだ。俺はね、お菓子の棚のところからすぐにお母さんのところに戻ろうとしたの。そしたらね、さっきの人が、呼んだの。これ見てーって、◎◯のキャラがあるよーって。それで振り返ったら、◎◯のキャラの玩具持ってて」
「・・・え?」
◎◯のキャラは、峻也が今、一番夢中になってるゲームのキャラクターだ。
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