第8話 アナウンス
硬い表情の史織がマンションの住人の専用駐車場から出ていった後、別の人影がもう一つ出てきた。他の階の住人ならばほとんど顔も合わせないので見知らぬ人間であっても何もおかしいことはない。というか、他人の姿に気を遣う余裕などなかった。
スマホのアラーム音が聞こえて、思わずびくっと背筋をただす。
いけない、峻也の迎えの時間だ。
夕食の買い物に行けなかったから、息子を拾ってから買い物だ。子連れだと時間がかかるから避けたかったけど、今日はもう仕方がない。慌ててマンションを出て、小学校に隣接する学童へ足を運んだ。
入り口を入って生鮮食料品のコーナーを過ぎた辺りからうずうずしてたのか、息子の視線があちこちを彷徨い始める。お菓子の棚や文房具商品の近くを通れば、そちらからへ目が釘付けだ。
普段から息子を連れてスーパーに出かけないので、峻也のテンションが上がってしまう。
「ちょっと待って!勝手に行かないで、峻也っ・・・!」
買い物カートを押していたかと思えば、唐突に何処かへ走り出した。小学生とはいっても、まだ幼い少年だ。日頃行かない場所なので興奮してしまうのだろう。母親が大声を出して叱れば峻也はちゃんと戻ってきて言うことを聞く。それはわかっているけれど、公衆の面前でそれは避けたい。
抑えめの声音で注意をしても、峻也は、まだ母が本気で怒っていないと思って、その足を止めなかった。
「・・・だから、連れてくるの嫌だったんだけどな。」
ショッピングセンターのような大きな施設ではないが、小さな子供が迷子になるには充分な広さが有る。探し出すのはなかなか大変だ。
息子を探すことに専念しようと、史織は一度カートのカゴに入れた商品を棚に戻し、カートも戻した。夕方の混み合うスーパー内の、人の間を縫うように歩いて小学生の息子の姿を探す。
「峻也ー、どこいったのー?置いてっちゃうわよー。」
店内を二周もすれば大概見つかるのだが、おかしなことに今日は見つからない。
心配になり、史織はサービスカウンター足を運んだ。
「青いシャツの男の子です。小学二年生の・・・呼び出してもらえませんか。」
店員がメモを取って、子供の特徴を尋ねる。
「小学生なら、自分のお名前はわかりますね。お名前で呼び出してよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
間もなく、店内放送で息子を呼び出してもらった。アナウンスは僅かな時間をあけて二回行われる。
すると、それから一分も立たないうちに峻也が一人の大人に手を引かれて現れた。
無事な姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
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