第二話 信じる奇跡(後編)
女王の能力に耐性がある黒セーバルはライオン達の戦闘中に目を覚ましていたが、女王が怖くて寝たふりを続けていた。
隠れていたフェネックは唾を飲み込む音で黒セーバルの寝たふりに気づき、ささやいて伝える。
「セルリアンの事情に詳しいわけじゃないけどさ、あの女王ってひとが君の天敵なんでしょ?なら絶対に絶対に逃げるべきだよ。私はアライさんがいないと駄目だからさ、女王と交渉してみるつもり。君のことは黙っておくからその間に逃げるんだよ」
(ネクソン版でフェネックが絶対に絶対にセーバルから特別を取り戻した方がいいと言っていた話と逆パターン。失いたくないもののためにリアリスト然にふるまう姿勢は世代が変わっても同じで、それが今度は黒セーバルを生かす方向に働き、黒セーバルがどうするかを決める主人公の立場にする。セーバルとフェネックの絡みはずっと見たくてこのシーンを考えたけど、けもフレ3で見れたので満足してしもうたポイント)
女王と交渉するフェネック。
降参して女王の味方に付くから、今のパークのことを知りたければ何でも説明するし沢山のフレンズと戦いたいなら腕自慢がいる場所も教える、お腹が空けば自分の分のジャパまんをあげるしいつでも毛づくろいだってする。だから、ここにいる皆のことは見逃してほしいと女王に提案する。
女王の願望を読み取る力は、服従の表情に隠された逆襲の意志を見逃さない。
「あわよくば寝首を掻けるような提案ばかり並べるとは素直な奴だ。お前のような奴を側に置くのはさぞ刺激的だろう。いや刺激を求めているのはお前の方か。」
フェネックは自分の思惑を見透かされてギクリとたじろぐ。嘘や誤魔化しは通じそうにない。それに刺激を求めてるっていったい…私はただアライさん達を助けたくて…。
「では私からの提案だ。見逃すのはアライグマか、それ以外の全員のどちらかをお前が選べ。お前の求める刺激的な日々はどちらなのか、よく考えてみるのだ」
発想の根っこが違う、なんて恐ろしいことを考えつくひとなんだろう。
そんなの選べるはずがない。
皆を助けたいけど、アライさんがいない世界なんて嫌だから私はこうしている。でもアライさんを選んだらきっとアライさんは私を許さないだろう。ううん、どちらを選んでも私は私自身を許せなくなる。嘘は通じない。でも選ばなくちゃ、選ばなくては。
返答に臆するフェネックの頭に女王は手を重ね、意識を再現世界に誘導する。
「だから選ばなくていい。選ぶ必要すら永遠に来ない世界があるのだから。」
眠りにつくフェネックを優しく横たえる女王。その背中に、黒セーバルの強烈な蹴りが直撃する。
・黒セーバルの奮起
最後の一人になっても黒セーバルが逃げる時間を稼ごうとしてくれたフェネックの姿を見て、自分はセルリアンであってもフレンズのようにありたかったから今日までの日々があり、“むこうがわ”でかばんと共に女王の元へ向かおうとした決意があったのだと思い起こす。
フェネックだって怖かったはずだ。怖いことは逃げる理由にならないんだ。ここで逃げたら二度とフレンズのように生きれないだろう。
そして女王にひとり立ち向かうことを決意する。
直撃を食らった女王はダメージを受けているにも関わらずどこか嬉しそうに黒セーバルを見返す。
何がそんなに嬉しいのか。私はこんなに辛い思いをしているのに。今まで私が辛い時にもそうやって嬉しそうな顔で私を見ていたのだろうか。
想像したら段々とムカっ腹が立ってきた。こんな気持ちは生まれて初めてだ。
どこまで正確に再現されたかもわからない己の体毛が全身で逆立つ感覚を覚える。
「きっとフレンズなら心の底からこんなことを言ったりしない。それでも私は、女王、オマエが大嫌いだ!」
・黒セーバルの戦い
黒セーバルは未来予測の能力を知らないため次第に女王が主導権を握りはじめる。
一方で黒セーバルは自分の攻撃が避けられ続けることに違和感を覚え始める。
攻撃を当てるイメージはハッキリと見えているのに。そう見えるのは自分のコンディションが良いから?いや違う、この感覚は“映画”を見ている時に似ている。
“映画”の中の私は女王を叩けてるのに現実はそうならない。それは「むこうがわ」の世界で“映画”を見ていた自分の姿と重なり、そして“映画”を作っていた張本人が連想される。
黒セーバルは自分が見ていた攻撃するイメージは無意識の内に女王の未来予測を覗き見たものだったと察知した。
黒セーバルは“映画”を繰り返し体験させられていた時の経験を活かして未来予測の中だけでデタラメな動きをしてみせる。それがフェイントとして働き、再び女王へ一撃を与えることに成功した。
「流石だ、気付くのが早い。そこら辺に倒れているフレンズ達全員が必死に頑張ってやっと入れられた2発の攻撃をお前はもうやれている。すごいじゃないか」
女王はダメージを負ったにも関わらずどこか嬉しそうに黒セーバルを褒める。
またあの嬉しそうな顔だ。腹立たしいのはそれだけじゃない、皆を傷つけるために自分が大好きな“映画”を利用したことを思うと全身の毛が逆立つ感覚がますます強くなる。
昂る感情に身を任せた黒セーバルは女王の未来予測をその映像ごと破壊することに成功する。
未来予測を破壊し続けて攻撃の予備動作すら読ませない猛攻に女王は防御一辺倒だ。
「進化したな。しかし壊すだけか…」
先ほどと打って変わって女王が怪訝な表情と共に言葉を漏らす。黒セーバルは自分が押してきているからだと受け取るが、それが理由ではないようだ。
・セルリアンの戦い
黒セーバルは未来予測を破壊する力を繰り返し使った影響で、女王は受けたダメージによって消耗が激しい。
そんなふたりを火口から湧き出すサンドスターロウが癒していく。
しかし全回復する女王に対して黒セーバルは半分程度といったところだ。
肩で息をする黒セーバルに女王は語りかける。
考えられる黒セーバルの回復が遅い原因は2つ。
①黒セーバルの身体のある程度の部分は既にアニマルガールと同等だから。
どうやってそんな状態が成立しているのか見当もつかないが、“むこうがわ”でヒトのフレンズを蘇生しようとした時に起こした進化に紛れた「自分はセルリアンだ」という自意識がそうさせたようだ。
② 黒セーバルの原動力がフレンズとして“再”び“生”きたいという願望だから。
黒セーバルが抱える「特別」は、傷を癒したり成長を促進させる力を持つため“再生”と相性が良い。一方で今回進化してみせた映画を破壊する力はそれと真逆に位置するもので、そうした力を使おうとするなら無理が出てくる。
さらに女王は黒セーバルの抱える矛盾を指摘する。
セルリアンでありながらフレンズとして生きたい。フレンズとして友人を救うためにセルリアンとして進化する。
そして“映画”が大好きなのにそれを作る女王は大嫌い。
黒セーバルは自分の半生が馬鹿にされたように感じ女王を睨みつけるが、続く言葉は意外なものだった。
「だからお前が良いのだ、イレギュラーよ」
女王にとって黒セーバルは不測の事態(イレギュラー)の塊だ。“むこうがわ”で見せた進化だけではない。それ以前に不完全なセルハーモニーで自分から分離したこと、再現世界へ干渉し始めたこと、黒セーバルが関わるあらゆる事象が女王にとって不測の事態だった。故にイレギュラー。
そしてそれら不測の事態は黒セーバルが抱える矛盾によって引き起こされる爆発的な進化が伴っている。女王の想定を遥かに超えた進化だ。
「私はそれに期待している。いや期待していたのだが…。再現世界を破壊してしまう進化をするようなら、どうやら私の見当違いだったようだな」
黒セーバルは女王に褒められたと思ったら今度は失望されてワケがわからない。
どういう意味だと聞く間もなく女王に蹴飛ばされて痛みで地面にうずくまる。
「実験は終了だ。“特別”を回収する」
黒セーバルの背中から女王が覆い被さった。
黒セーバルが女王事件の時に元のセーバルから分裂することになった最初の瞬間、その昔けものキャッスルで行われた“特別”の回収と同じ感覚が黒セーバルを襲う。理解が追いつかないまま本能的な危機感が全身を襲い、身体中の力が抜けて意識も薄れていく。あまりにも突然で理不尽な死がすぐそこにあることを予感する。
だが黒セーバルは最後の力を振り絞った。女王から見えない位置で、自分の懐から巾着袋を取り出す。自分の肉体を現実に再生した時、同時に再生していた「清めの塩」だ。
(私を…消滅させる塩…。これは、女王には効かない。でも、トクベツが回収される最中に…私ごと消滅させれば…女王だってただでは済まないはず…。
私の、サーバルみたいに、こうやって食べれば、わたしモ…こレデ……サーバルミタイニ…スゴイ……)
決死の思いで清めの塩を口に運ぼうとする黒セーバル、その腕を女王は掴み捻り上げた。
「アアッ…どうして……。こうする“映画”は、見てなかったはず…なのに…」
「未来を予測するまでもない。私がどれだけの時間をこの実験にかけたと思う?だが想定する中では私を葬れる可能性が最も高い素晴らしい作戦だ」
やられた。
女王は最初から“特別”を回収するつもりなんかない。こうやって私を追い詰めてまだまだ進化させるつもりなんだ。
「万策尽きた、という顔をしているな。私の方は違うぞ。お前が“映画”を楽しく見てる間も、お友達を引っ張り出して遊んでる間も、ずっとずっとお前を進化させる方法を考え続けてきたんだ」
私は今まで何をやってきたんだろう。
「この程度で実験を終わりにするはずがないだろう。だがそれに気づかなかったことに恥じる必要はない。それだけお前が生きるために一生懸命だった証拠なのだから」
勝てるわけがない。懸命さの底が違う。
「もうひとつ、お前が見落としてるであろうことをひとつ教えてやろう。
お前の身体はある程度アニマルガールになれていると言ったが、裏を返せば“残りはまだセルリアン”だ」
身も心も疲れ果てているはずの黒セーバルの体が、自分の意思とは関係なく動き始めた。
・実験は続く
女王に操られ、自分が単なるセルリアンでしかないことを否応なく実感させられる黒セーバル。
必死にふりしぼった勇気も、決死の覚悟で挑んだ戦いも、すべて女王の想定の中で踊っていたに過ぎなかった。
こうして操られているのも“むこうがわ”で女王を目指して走る最中に自分が危惧していたことじゃないか。
思い返せばあの時から今に至るまで自分がよかれと思った行動はすべて女王のためになってしまってる。
フレンズらしくありたいなんて思ってしまった自分がいけなかったんだ。
無力感に打ちひしがれる暇もなく事態はさらに悪い方向へ向かう。
女王は操られたままかばんに手を掛けたくなかったら更に進化してみせろと黒セーバルを脅す。先ほどの特別の回収のように必死にさせるフリなのかどうか、もはや判断する余地は残されていない。
女王の手によりサンドスターロウが黒セーバルの体に吸収され、先ほどまでくたくただった体調は憎たらしいまでに回復してしまう。自分のセルリアンである部分が、ますます強固に黒セーバルを操っていく。
そして自分の手がかばんの首にかけられた時、黒セーバルはただ泣きながら、フレンズと友達になるために一生懸命練習して身につけたセルリアンらしさが抜けた言葉使いで、女王に許しを請うしかできなかった。
女王はシラけたような表情で黒セーバルの制御を解きながらかばんもろとも地面へ放り投げる。
「なまじ自我が発達したせいでストレスに耐えきれなくなったか…。
まあいい、泣き疲れて気が済んだら実験を再開しよう。
お前は今、泣いていい。
大丈夫だ心配するな、お前達なら絶対にできる。
二人の絆が奇跡を起こすんだ。」
黒セーバルはもう自分がどうしていいかわからない。
「私は、お前を信じているぞ」
絶望の淵に沈んでいく黒セーバル。
その横で、眠り続けるかばんの指がほんの少しだけ動いた気がした。
第三話 前編へ続く
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