第22話 代理試験
すっかりお馴染みの進路指導室。観葉植物が机の隣に置かれていた。そんなもの、あったかな、と不思議に思う。
「神谷先生、この植物、土がカラカラだから、水をやってもいいですか。」
神谷先生は、少し驚くと、
「この観葉植物、前にあなたと面接した時もあったけれど、前も土は乾いていたわよ。思いやりの心が少し生まれたようね。」
「もしかして、私との面談の日はわざとカラカラにしているんですか?」
「いいえ、普段は学校が終わった夕方に、私が水をやっているの。だから、これは想定外。」
「点数、上げておいてください!」
「ふふふ、考えておくわ。」
「それであなたは、この下宿生活で、何を一番学べていると思う?」
「私は、まだまだだってことです。」
「というのは?」
「私は自分の力で家賃も食費も稼げないし。ギターさえやっていれば何とかなると高校で思っていたから、ギターしかやっていなかったけど、それだけだと甘かったなって。親切な方たちにたくさんお世話になって分かったことは、私はまだ学生だから、こんな生活でも許されているっていうことです。高校の間はやりたいことを好きなだけやろうと思っていたけど、高校に戻ったら、勉強もきちんとやりたいと思います。だから、魔法使いの国に行けたのが、まだ高校1年生の時で本当に良かった。」
「うん。」
「・・・でも、私は思うんです。私は、やっぱりギターを一番頑張りたいです。もちろん授業中はちゃんと集中するようにするけれど、ギターもきちんと頑張りたいです。将来ギターが仕事につながらなくても、ギターを弾き続けていきたいです。」
神谷先生は笑顔でノートに何か書いていた。そして、
「久しぶりに高校を見て回りたいでしょう。お家にも帰っていいわよ。一か月、人間界でゆっくりしてね。桃田高校は今日から夏休みだけど、部活がある子は来ているわよ。」
・・・一か月!長い!私は早く魔法使いの国に戻りたいと思った。でも、本来私がいるべき場所は、ここなのだ。
「神谷先生。1年下宿して人間界に戻ったら、私は高校何年生になるんですか。」
「今は出席日数が足りないから、もう一回、1年生からやり直しよ。」
最初からやり直せて、よかった。、戻ったら、ちゃんと授業も頑張る。その上で、私は高校の「制約の中の自由」に気付けた気がした。私は、久しぶりに高校を見て回ることにした。
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