第19話 コンクール

だんだん日常会話が出来るようになってきたので、私はまた新しい仕事を考え付いた。モニカさんに、

「あの、私、日本語会話の講師になってみたいんですが、資格って要りますか?」

と、聞いたところ、

「日本語会話の講師は、資格がいるわよ。難しいかも」

と言われてしまった。そりゃそうだ。

「でも、こないだ、軽音楽の学生のコンクールを応募してたわよ。そっちの方が楽しそうだし、遊びで申し込んでみたら?」

「いいですね!ユメに相談してみます!」

ユメは、

「いいね!楽しそう!ひょっとして、ひょっとするかもよ!」

と、ノリノリだ。



この世界に来てから、いつのまにか3か月目になっていた。

噴水前で路上ライブをした後モニカさんの家に戻ると、大きな段ボールが届いていた。

「これ、あなたのお母さんからよ。」

私のお母さんが、こういうことをするとは思わなかった。お母さんは、ケチなのだ。

「今、開けてみますね。」

開けると、私の大好きなお菓子が大量に入っていた。手紙までついていた。


「モモへ

泣き言も言わず頑張っているそうですね。感心しました。

子供たちに配ってください。もちろん、モモも食べてくださいね。母」


ちょっと、いや、かなり、嬉しくなった。母なりの心遣いに感謝した。

それから、子供のギター教室の後には、みんなでお菓子を食べてわいわいする時間を作れるようになった。子供たちは、初めて見る日本語のパッケージに、興味津々だ。味も、ここの世界とは微妙に違うようで、みんな

「お姉ちゃんのギター教室に行くと、珍しいお菓子がたべられるぞ。」

と、吹聴しているらしい。何よりだ。


コンクール2週間前。私たちは絶好調だ。もしかしたら優勝できるかも、という期待で心がパンパンだ。賞金も気になるところだ。何より、モニカさんの言う、「楽しんで出来ること」であることも嬉しい。ここの世界は、本当に平和だ。私の周りだけかもしれないけれど。


そして、コンクール当日。モニカさんとリタちゃんキラくんも、応援に駆けつけてくれた。おねえちゃん、頑張るよ!


ドキドキしているうちに、私たちの番になった。私とユメで、曲の紹介を簡単にする。

「今日、披露する曲は、子供たちと教室で作った曲です。人間界と魔法使いの国の間に、より一層の交流がありますように。それでは聞いてください、「ネヴァーアローン」。私が魔法使いの国に突然送られて、優しい人たちの助けを借りたことを感謝する内容の曲で、日本語と現地語を織り交ぜた曲だ。

(私たちは、日本語の曲と現地語の曲を半分くらいずつ作っている。ユメは特に英語の横文字がお気に入りで、やたら

「曲名、英語にして。適当でいいから」

と、言ってくる。)

コンクールでの演奏は、あっという間に終わった。拍手が沸き起こる。

ユメを見ると、なぜかユメは泣いていた。私もユメを見ていると、涙があふれてきた。関係者席を見ると、この間のカメラマンさんと通訳の女性が、こちらを見て撮影していた。そのあとのどのライブも素晴らしく、私たちは甘かったと気付いた。優勝は無理だな。でも、ここまで頑張ったことに、喜びの気持ちであふれていた。

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