第3話 交差点
土曜日の9時5分前。私は洋服とお菓子でパンパンにしたリュックサックを身体の前にかけて、後ろに、いつものマイギターを背負って進路指導室の扉の前に立っていた。
この間の進路相談の日、家に帰って母親に事前にこの話をすると、
「旅費とかかかるんじゃない?高いの?」
と、現実的な返事が帰ってきた。
「それが、神谷先生も『いい話』としか教えてくれなくて。実際にいくらかかるのかも何も言わなかった。」
「まあ、先生が『いい話』っていうんだから、世の中の規範からは外れていないと思うわよ。まあ、行ってきたら。ダメだったら帰ってくればいいし。」
私の母親は私にとても甘い。ただ、なかなかの締まり屋ではある。中学3年生の時にギターを習いたいと勇気を出して言ったら、
「そんなお金、うちにはありません。」
と、あっさり却下されてしまった。ただ、私には幼稚園生の時から貯めてきたお年玉貯金がある。ギターを習えなくても、安いギターを買うことは出来た。しかも、一応新品。
インターネットには親切な人がいっぱいいて、私はたくさん動画を見て、ひたすら練習した。高校受験なんて、ろくにやる気もなかった。成績もそんなに良くなかったから、行ける学校なんてあるのだろうかと思っていたほどだった。するとある日、中学の進路指導の先生が、
「推薦で、高校に行けるかもしれない。」
と、伝えてくれた。芸能の高校の、推薦入試。面接とギターのパフォーマンスが評価軸になるらしい。試しに受けてみたら、あっさり合格。卒業式の日、そんな私にクラスの担任が、
「月島は世の中をなめている。世の中、そんなに甘くない。月島はいつか、とんでもないしっぺ返しを喰らう。」
と、予言した。
ギターを頑張って練習したのは確かだけど、好きなことしかやらない私はわがままなのかもしれない。でも、そうすると、勉強が好きで勉強しかしていない人はどうなっちゃうの?多分、褒められるよね。う〜ん、世の中って難しい。
そんなことを回想しながら待っていると、神谷先生が登場した。
「お待たせ〜。荷物、多いね!」
さて、私の未来や、いかに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます