第4話 猫のシュザンヌ

「お待ちなさい」

妻の声のあと、沢山の足音が廊下をかけていった。階段を駆け下りていく集団の先頭に、長い毛をなびかせ、疾走する猫が見えた。


 シュザンヌだ。ようやく猫に变化出来たらしい。シュザンヌは常々、思いがけないときに猫になってしまうことを、気に病んでいた。そのシュザンヌが、なんとか猫になろうと、奮闘している姿は微笑ましかった。


「やはり、追いつくのは無理ですわ」

妻の手には首輪があった。猫に变化したシュザンヌが屋敷に帰ってきた時に、使っていた首輪だ。

「出来ればつけて欲しいと、シュザンヌに頼まれていましたけれど。今回は、すっかり猫になってしまっているようです。私の声に、耳も貸してくれません」


「何故、確かめるだけなのに、わざわざ猫になるのですか。必要ないでしょう」

「まぁ、必要ないとは何事ですか。必要です。少し考えたらわかるでしょうに」

息子の言葉に呆れた妻に、私は沈黙を選んだ。


「猫の姿で彼と一緒に居た時間のほうが、長いのですよ」

そういうものなのか。私は、思った言葉を口にはせず、息子と目を合わせるに留めた。


 私と妻は、部屋で、二人が来るのを待っていた。あれこれと取止めもない考えが湧いてきて、落ち着かない私とは対象的に、妻は紅茶を楽しんでいる。


 家長の父上に任せますと、退席していった息子が羨ましい。家長のわたしが席を外す訳にはいかない。私は、ジリジリとしながら、待っていた。

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