第4話 猫のシュザンヌ
「お待ちなさい」
妻の声のあと、沢山の足音が廊下をかけていった。階段を駆け下りていく集団の先頭に、長い毛をなびかせ、疾走する猫が見えた。
シュザンヌだ。ようやく猫に变化出来たらしい。シュザンヌは常々、思いがけないときに猫になってしまうことを、気に病んでいた。そのシュザンヌが、なんとか猫になろうと、奮闘している姿は微笑ましかった。
「やはり、追いつくのは無理ですわ」
妻の手には首輪があった。猫に变化したシュザンヌが屋敷に帰ってきた時に、使っていた首輪だ。
「出来ればつけて欲しいと、シュザンヌに頼まれていましたけれど。今回は、すっかり猫になってしまっているようです。私の声に、耳も貸してくれません」
「何故、確かめるだけなのに、わざわざ猫になるのですか。必要ないでしょう」
「まぁ、必要ないとは何事ですか。必要です。少し考えたらわかるでしょうに」
息子の言葉に呆れた妻に、私は沈黙を選んだ。
「猫の姿で彼と一緒に居た時間のほうが、長いのですよ」
そういうものなのか。私は、思った言葉を口にはせず、息子と目を合わせるに留めた。
私と妻は、部屋で、二人が来るのを待っていた。あれこれと取止めもない考えが湧いてきて、落ち着かない私とは対象的に、妻は紅茶を楽しんでいる。
家長の父上に任せますと、退席していった息子が羨ましい。家長のわたしが席を外す訳にはいかない。私は、ジリジリとしながら、待っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます