第123話 予行練習
マレインはファイヤー村に出向きルルと共に稽古を。一方、ライト、ネイリー、リリアの3人はどんな小さな依頼でも受け宿や飲食代に必要な金銭を稼ぎ続けていた。
———【1週間後】
マレインはルルと共に稽古してから1週間の時が経った。
太陽の日が沈みかけるファイヤー村で疲れ切ったマレインは手を前に出す。
マレイン 「火の———」
———あはははは!!
マレインの脳内で過去に笑いもの扱いされた声がこだまする。我に返ると再び氷の弾に変わり膝から崩れ落ちる。
1週間の時が経っても尚、マレインは火を出す事すら出来ずにいた。
マレイン 「どう…して…。どうして、出来ないんだっ!!」
マレインは声を荒げ叫ぶと悔しさの余りに手を丸め拳で土を叩く。目が涙が溢れ土にポタポタと零れるとじわりと濡れていく。
ルル 「マレイン王子…」
マレイン 「どうせ…どうせ私は無能なんだ———」
———パシンッ!
マレインの頬に痛覚が走り手で抑え顔を見上げると
ネイリー 「自分を責め立てるような事を二度と言うなっっ!!」
涙を堪えているネイリーはマレインと目が合うと背を見せる。マレインは赤くなった頬を手で抑えると顔を俯け黙り込む。
マレイン (私だって皆の力になりたいのに!どうして…どうして全然出来ないんだ!)
マレインの瞳からは涙が止まらず乾いた土が雨が降ったかのように一部だけどんどん濡れていく。現場にいたルルはどうしていいかわからず慌てふためく。
ライト 「おーい!マレインー!様子見に来たぞー!」
リリア 「差し入れでファイヤー村の焼き菓子買ってきたよ!」
マレインとネイリーに対し2人は笑顔で大きく手を振ると駆け寄る。
近づいていくと土に手を当て涙を流すマレインと腕を組み顔を俯けるネイリーの姿がくっきりと見え早く動いていた足が徐々に遅くなり無言となる。
ずっしりと重い石が落ちているかのような重い空気の中、ルルはこの状況を切り替える策を考える。
ルル 「あっ!マレイン王子!実は村で火の精霊祭の予行練習をしてるんです!良かったら気分転換に観にいきませんか?」
ルルは手を合わせ微笑みながら提案すると黙り込んでいたマレインは涙を拭い顔をあげる。
ライト 「お、おう!いいじゃん!」
リリア 「へ、へぇ~~!見たことないから観てみたいな!」
ネイリー 「私も…観てみたい」
3人の意見が揃うとマレインは立ち上がりルルの顔を見つめる。
マレイン 「ルル。案内を頼むよ」
ルル 「はい!」
何とか状況を切り替えるとルルは安堵し筆頭に歩き出す。
歩いていると川が穏やかに流れる音が聞こえ、ファイヤー村の中にある川へと辿り着く。
村の人々は川に向かい大きなハートの形、大きな一輪のバラの形、そして大きな木を形をした火の魔法を詠唱する。
ライト 「すっげー!」
リリア 「わぁ!」
道端ですれ違う練習に比べ打ち上げ花火のように迫力のある火の魔法にライトとリリアの心を躍らせる。
マレイン (そうだ…。私も昔はこうやって家族と…)
マレインは王宮内にある池の事を思い出す。父親、母親、そして兄妹のエデイン、ミラ、オリヴィエと共に火の魔法で好きな形を創造し繰り出す魔法。
家族で笑いながら王宮で花火を楽しむかのように火の魔法を繰り出す姿がマレインの中に蘇る。
ネイリー 「綺麗だ…昔、マレインが王宮で見せてくれた蝶みたい…」
隣で呟くネイリーの言葉にマレインは自然と足が動き、穏やかに流れる川の前へ歩く。
マレイン (あの頃はとても楽しかった。ネイリーに披露した蝶も———)
以前、夢で観た王宮内の池でネイリーに披露した蝶を思い浮かべる。ネイリーの透き通る声で歌うリズムに合わせて色々な属性魔法を出しカラフルに舞う蝶の光景。
マレインは手の平から氷の弾を出し川に向い放つ。続いて、水、土、風の順で繰り出すと手の平には自然と小さな火が灯され弾に膨れあがると放つ。
放った弾はネイリーに見せた蝶よりも一回り大きくヒラヒラと水面上に優雅に舞うと交わり斑点の輝きとなり真っ暗な空に消えていく。
マレインは我に返ると自然と火の魔法を出していた事に気づき、盛大な拍手の音が聞こえ辺りを見渡す。
「すげー!四大属性と氷魔法が使えてるぞ!」
「レアな芸術を見せてもらったきぶん!」
「ブラボー!!」
盛大な拍手と歓喜の声にマレインの心から、わだかまりが一気に抜けていく。
マレイン 「出来た…火の魔法を出す事が出来た!!」
喜びの余りにマレインは手の平からロウのように小さな火をだすと徐々に大きくなり丸くなる。
拳を握ると火は消えマレインは嬉しさの余りにガッツポーズをするとライトが背後から勢いよく抱き着く。
ライト 「よかったなー!マレイン!火の魔法が使えた!」
リリアもマレインのそばへ小走りで駆け寄り笑みを浮かべる。
リリア 「良かったね!マレイン!」
マレイン 「うんっ!ありがとう!ルル…そして…」
マレインは振り返るとネイリーの元へゆっくりと歩き出す。
マレイン 「ネイリー…」
ネイリー 「昔、披露してくれた蝶がまた見られて良かった。とても綺麗だった」
ネイリーがにっこり微笑むと、マレインは気分が高騰し満面の笑みを返す。
マレイン 「うん!皆のお陰だよ!」
ライト達は過去を克服したマレインを祝福していると中年男性が息を切らしながらルルの元へ走っていた。
「おーーい!ルル!!」
ルル 「パパ?」
ルルの父親、ファイヤー村の長は前で膝に手を当てると大きく息を吸い吐く。呼吸が落ち着くとルルの両肩を掴む。
「一週間前に鉱山にいった奴等がまだ戻ってこないんだ!」
ルル 「えっ!?!?」
ルルは一週間前、マレインと共に稽古をする場所へと向かう最中に出くわしたつるはしを握り鉱山へ向かった4人の村の人々を思い出す。
「鉱山の近くには仮眠する小屋があるが、1週間も掘った量の鉱石を持ち帰るなんて出来る訳がない!もしかすると誰かに襲われているのかもしれない…。冒険者ギルドに依頼を出そうと考えている!」
ルル達の会話を横聞きしていたライトは胸に親指を当てる。
ライト 「その依頼、俺達が受けるよ!」
自信満々に満ち溢れているライトだが、ルルの父親は顔を曇らせる。
「気持ちは嬉しいが君たちの年ごろだと…」
ルル 「パパ。ライトは一応学校を首席で卒業してるし、この前の依頼を出したオークも倒してくれてるんだ。だからきっと大丈夫!」
顔が曇っていた父親はルルの話を聞くと、目を大きく見開きライトの顔を見つめる。
「そうか…君の話はルルから聞いている。武術に優れているようだな。では、今日中に冒険者ギルドに依頼を掲示すように書類を提出する。明日の朝には掲示板に貼られているハズだ。お願い出来るか…?」
ライト 「あぁ!任せてくれ!」
自信気にライトは自分の胸元を叩く。
ネイリー 「では、冒険者ギルドに戻るか」
リリア 「うん。明日に備えて今日はゆっくり休もう!」
マレイン 「そうだね。ルル、私の為に稽古を付き合ってくれてありがとう」
お礼の言葉を述べるマレインに対しルルは首を横に振ると満面の笑みを見せる。
ルル 「いいえ。頑張った成果ですよ!胸を誇って下さい!」
マレイン 「うん!ありがとう!」
ライト達はルルに別れを告げるとマレインは魔道具のランタンを取り出し夜道の中、4人は冒険者ギルドへと向かう。
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