第111話 ダイヤスファ国の初めての依頼


 高額商品である"魔法の鞘"を購入してしまい金欠となったライト達は冒険者ギルドに訪れ掲示板を眺めていた。


ライト 「"ファイヤー村の近辺でオーク5体の魔物が出没。討伐する冒険者を求む。"―――これ丁度いいんじゃないか?」


 掲示板にずらりと無造作に貼られている依頼書をライトは読み上げると指を差す。


ネイリー 「ふむ。丁度、ファイヤー村に向う所だし良い案件だな」


リリア 「良いね!これ受けてファイヤー村に向う?」


マレイン 「そうだね。報酬は―――5万シルか。これならその場しのぎだけど旅が出来そうだね」


 全員の意見が一致するとライトは掲示板に貼られている依頼書を取り受付へと向かう。


ライト 「姉ちゃん!この依頼を受けたいんだけど!」


 戸棚に収納している書類を整理していた受付嬢はライトの声で振り返り受付の机へと向かう。


 「はい!では契約を―――あなた様は…」


 受付嬢はライトの顔を見た瞬間、3日前に問題を起こした光景が蘇り能力封印装置を装着した手首を見つめる。


ライト 「ん?俺の顔になんかついているか?」


 「あっ。いえ!手首に装着した能力封印装置が外れて良かったです」


ライト 「あぁ!この間はごめんな!」


 手を合わせ顔を下げるライトに受付嬢は首を横に振る。


ミント 「いいえ。あの時は運が悪かっただけですよ…。私の名前はミントです。ダイヤスファ国の冒険者ギルドの事でしたらお気軽にお申し付けください」


 透明の丸い眼鏡をしたミントは淡い緑色の髪を一本に結んだ太い三つ編みを揺らし顔を傾け穏やかに微笑む。


ライト 「この依頼を受けたいんだ!」


 机の上に提出された依頼書をミントは手に取り文字を読み上げる。


ミント 「"ファイヤー村の近辺でオーク5体の魔物が出没。討伐する冒険者を求む。"ですね。報酬はどうなさいますか?分配しますか?」


ライト 「いや報酬は全部俺に―――」


ネイリー 「報酬は全てこのリリアになるように契約を。異論は無いな?」


リリア 「うん。それで問題無いよ」


マレイン 「そうだね。リリアならしっかり管理してくれそうだし」


 話を遮り会話を続けるネイリー達に異論をする事も許されぬ状況でライトは黙り込み小さく頷く。


ミント 「では、契約を」


 ミントが依頼書の文言と報酬の最終確認をし契約魔法を詠唱するとライト達の手首に■のマークがつく。


ミント 「では。お気をつけていってらっしゃいませ!」


 受付越しでミントは手を振るとライト達は冒険者ギルドを後にしファイヤー村へと向かう。


 エレメンタル街下層のそばにある冒険者ギルドの道並みは街の影響か整備が整いアスファルトの上を歩く。


ライト 「丁度、ファイヤー村に向う所だったし良い依頼があって良かったな!」


ネイリー 「そうだな。まぁ、お前が変な鞘を買う事が無ければこんな事にはならなかったがな」


リリア 「そうだね。これでライトの金銭感覚はよ~~くわかった!もうライトにお財布は預けないから!」


 女性2人にキツイ言葉を言われライトは肩を落とすとしょんぼりする。


マレイン 「まぁまぁ。ネイリー、リリア。もうそこまでにしてあげなよ。終わった事だし」


ライト 「マレイン~~!俺は男の仲間が増えて良かったと思っている~~」


 ライトはマレインの腕にしがみつき涙目になる。


 ファイヤー村に向う道中、段々と整備はでこぼこに変わり荒くなる。唯一整備されている馬車が通る道を歩いているとライトはふと遠くの位置で物陰が動くのを察知し目が鋭くなる。


ライト 「んっ?あそこに何かいるな」


 ライトは歩いている道から外れ砂利で出来ている地に足音を掻き消すように移動する。


 腰についている剣の鞘を握り普段、ヘラヘラと笑うライトとは一変し鋭い目で辺りを警戒する表情からは真剣さが読み取れる。


ネイリー 「リリア、マレイン。ライトについていこう」


リリア 「うん!」


マレイン 「わかった」


 3人は互いに目を合わし頷くと先頭で走るライトの後を追っていく。砂利の道をひたすら走り続けるライトは大きな岩まで辿り着き身を隠すように腰を曲げる。


ライト 「この上にいる」


 小さな声でライトは3人に対し話し目を上にあげる。大きな岩の上にはひっそりした空洞のある穴の中で微かな会話の音が聞こえ耳をすませる。


 「「「「ブッヒッヒッヒ!」」」」


 鼻を荒く鳴らしコミュニケーションを取るオーク達の声が聞こえライト達は顔を合わせる。


ライト 「依頼書に書かれているオークだな。今なら油断してるから突撃するぞ」


 ライトは剣の取っ手を握り立ち上がろうとした瞬間


 「ここらヘンのニンゲンはヨワイからナァ」


 言葉を話す魔物にライト達の顔は険しくなる。


ライト 「人間の言葉を話しているのか?」


ネイリー 「どうやら1体は魔獣のようだな」


 至って冷静に話すライトとネイリーとは正反対に初めて魔獣に出くわしたリリアとマレインに緊張感が押し寄せる。


リリア 「魔獣って魔王軍の配下だよね?」


マレイン 「か、か、か、勝てるの…!?特殊能力も無いのに?」


 緊張し声が裏返るマレインにライトは優しく肩を叩く。


ライト 「大丈夫だ!マレイン!」


ネイリー 「あぁ。ライトの不思議な能力で絶対に勝てる」


リリア 「うんうん。マレイン、ライトを信じて!」


 マレインはライト、ネイリー、リリアの自信に満ち溢れた顔を順々に見つめていく。


マレイン (そうだよね。私をここまで成長させてくれた仲間を信じなきゃ)


 ライト達と共に行動してきた日々をマレインは思い返すと深呼吸し表情が一変する。


マレイン 「わかった!絶対に倒そう!」


 身体の震えが止まりマレインは意気込むとライト達は力強く頷く。


ライト 「おしっ!んじゃ、俺とネイリーは前線で戦うぞ!」


ネイリー 「あぁ。リリア、マレインは後方から援護を頼む」


リリア 「うん。まかせて」


マレイン 「了解」


 作戦が練り終わるとライトとネイリーは岩を掴み上へと身軽に飛躍する。オーク達の前で着地し2人は武器を構える。


ライト 「おい!お前ら!人間をなめるんじゃねぇーぞ!ブヒっ!」


 剣の刃を一直線で突き出すライトにオーク達は振り返り立ち上がる。

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