第110話 魔法の鞘
ライト 「ふ~~!美味かった!」
空になった器を前にライトはお腹をさする。もはや味を吟味しているのかも分からない早さで完食するライト。
一方ネイリーとリリアはフロートのアイスクリームをスプーンですくい口の中へ運ぶ。
ネイリー 「冷たくてさっぱりするな」
リリア 「んー!!やっぱフロート美味し~!毎日食べられたらいいのになぁ」
目尻を下げ頬に手を当てる2人の表情にマレインは微笑むとソーダをストローで吸う。
マレイン 「ダイヤスファ国にいる間はいつでも食べられるよ」
膨れたお腹をさするライトをよそに3人は食事を噛みしめ完食すると席から立ち上がり、お会計をするカウンターへと移動する。
「お会計、合計で2万シルとなります!」
店員が笑顔で食事の料金を言うとマレインはマジックバックから財布を取り出し、がま口を開ける。
がま口の中に入っている金銭を見つめると、マレインは眉尻を下げライト達の顔を見つめる。
マレイン 「ごめん。そういえば必要最低限しか持たないようにしたからお金が…」
申し訳なさそうに話すマレインにリリアは首を横に振る。
リリア 「あ、私達が出すよ。いつもマレインばかりにお世話になってるしね」
リリアはマジックバックを漁り財布のがま口を開くと目を丸くする。会計を待つ店員の前でリリアは暫く硬直するがお金を取り出しカウンターに置く。
「ありがとうございました~!またの起こしを~!」
店員にハツラツとした声で見送られたまま4人は店外に出るとリリアは鋭い目でライトを睨む。
リリア 「ライト君~。何だかお金が少ないようだけど…これはどういう事かな~?」
顔の筋肉をピクピクとしながら笑うリリアに、ライトはビクッとし過去の出来事を思い返す。
―――【時は遡り】
ライト達がダイヤスファ国に入国する前まで遡る。
ダイヤスファ国の手前にあるサファイアローメン国内のレッド村へと訪れていた。
ライト 「ここの村っていろんな武器があるな!」
ライトは鍛冶職人が経営する武器屋に訪れていた。陳列されている短剣、斧、槍、大剣など順々に見ていくと剣があり手に取る。
ライト 「すっげーな!」
銅で出来た取っ手を握り、鞘から剣を抜くと銀色に輝く鋭い刃にライトの顔が映る。
ライト 「新品の剣も良いけど…やっぱ俺は自分の剣が一番だな!」
そう呟くと刃を鞘に納め陳列棚に剣を戻す。武器屋を眺め終えるとライトはネイリー、リリアと宿泊する宿にへと向かう。通路を歩いていると小さな露店があり目に留まる。
「そこの兄ちゃん。剣が得意みたいだが…」
小さな露店で座る男性はライトの腰についている剣を見るとニヤリと笑う。
ライト 「うん!剣は俺の相棒だ!」
「そんな兄ちゃんに朗報だ!この鞘!」
男性は露店の下から物を取り出すとライトの目の前に置き、金色に輝いた鞘を見せる。
ライト 「すっげぇきれーだな!」
「この鞘な。実はダイヤスファ国の新作の魔道具で"魔法の鞘"っていうんだ」
ライト 「"魔法の鞘"…?」
「この鞘に兄ちゃんの持っている剣を収めると…。あら不思議!どんな強い敵も斬ってしまう剣に化ける!」
ライト 「マジか!?」
「本当だ」
男性は腕を組むとニヤリとしながら頷く。
ライト 「その鞘欲しい!いくらだ?」
「100万シル!」
ライト 「たっけーーーー!!」
目が飛び出るほどライトは驚愕する。
「そんな兄ちゃんに更に朗報!今なら”強くなるなるキャンペーン"を開催しててな!本日限り半額の50万シル!」
ライト 「おぉーーーー!!でもなぁ…これ買ったらネイリーとリリアにコテンパンにぶん殴られるな…。2人のお金も預かっているし…」
「命を守れると思ったらお買い得だぞ?」
男性の甘い誘惑にライトは息を呑む。暫く腕を組み悩みに悩むとライトは意を決して頷く。
ライト 「それ!買うよ!」
「毎度あり!」
50万の大金を支払うと金色に輝く"魔法の鞘"を手に入れ剣を収めるとライトは人影の少ない場所へと移動していった。
―――――――――――――――――
記憶を思い返すとライトの額から嫌な汗が流れる。
ライト 「あ…えと…その…」
モゴモゴと言葉に詰まるとリリアはライトの腰についているマジックバックを漁り、あらゆる物が地に落ちる。
ライト 「リ、リリア!!」
マジックバックを漁るとリリアの手には例の金ぴかに輝く金の鞘がありライトを睨む。
リリア 「これ…何?」
ライト 「ダイヤスファ国に入国する前にレッド村で買いました…」
微かな声を出すライトにリリアは呆れる。
リリア 「いくらだったの?」
ライト 「え、えと…50万…ですます…」
リリア 「は~~~?信じられない!私とネイリーからもお金を渡したのにほぼ使った事になるじゃない!」
ネイリー 「何っ!?お前の散財っぷりに心配してダイヤスファ国の冒険者ギルドで財布を預かったのだが既に使っていたのか!」
怒鳴り声を荒げる2人にライトは震えながら金の鞘に指を差す。
ライト 「そ、その鞘さ!売ってる人がつけたら強くなるって話してたんだ!"魔法の鞘"って言うんだって!」
静かに声を出していたライトは魔法の鞘になると声が大きくなり必死に説明をするが、ネイリーとリリアの鋭い目は変わらぬままで目線を地面に逸らしお腹辺りで手を組む。
ネイリー 「つけてみたのか?」
ライト 「ウン」
リリア 「どうだったの?」
ライト 「何も変わらなかった…ですます」
ネイリーとリリアは眉間にシワを寄せると額に手を当てる。
ネイリー 「ぼったくりじゃないか…。リリア。全財産は今、いくらあるんだ?」
ネイリーに促されリリアはやせ細った財布のがま口をもう一度開け残りの金銭を人差し指で数えていく。
リリア 「さっき2万払ったから1000シルしかない…」
場に重い沈黙の間が経つ。マレインはその場でおろおろしているとネイリーは深いため息を吐く。
ネイリー 「どうやら冒険者ギルドで依頼を受けて稼ぐしかないようだな。このままでは宿すら泊まれないぞ」
リリア 「はぁ~。そうだね…冒険者ギルドに向わないと」
ライト 「お、俺も稼ぐからさ!」
ネイリー 「当然だ」
リリア 「当たり前でしょっ!」
ライト 「ハイ…」
どんどん小さく縮こまるライトにマレインは肩を優しく叩く。
マレイン 「私も皆と一緒に依頼を受けるよ。一緒に稼ごう」
ライト 「マ、マレイン~~~!」
カンカンに怒る女性組だがライトにとってマレインは助け船となり腕を前に出す。
マレイン 「わ、わぁ!ライト!どうしたの!」
ライト 「お、俺だってさ~強くなりたかったんだよ~~」
マレインの腕にしがみつきライトは涙を流す。
マレイン 「気持ちは分かるよ。とりあえずライト、冒険者ギルドにいって依頼を受けよう?」
ライト 「うん~~~。頑張る~~~」
ライトはマレインの腕を掴みシクシクと涙を流しながらダイヤスファ国にある冒険者ギルドへと向かう。
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