第104話 マレインの新たな旅


 ライトはリリアに耳を掴まれると無理矢理、脱衣所まで連れていかれ身体を洗った。使用人達のお陰もあり髪を整え、シワの一つも無い服に着替えると食堂に向う。


ライト 「おまたせー!」


 食堂に大きな声が響くと既に他の者は着席し食事中だった。ライトはマレインの横の空席まで移動し着席すると香ばしい匂いを放つパンに手を伸ばす。


マレイン 「ライト。能力封印装置が外れて良かったね」


 パンに手を伸ばすライトの手首を見たマレインは笑みを浮かべ話すと紅茶を喉に通す。


ライト 「あぁ。朝からマリアの姉ちゃんに稽古の相手になって貰ったんだ!」


マレイン 「マリアは昨晩、オリヴィエと一緒にここの屋敷にきたみたいだね」


オリヴィエ 「マリアの話だと国立魔法兵の副団長、レオもここの屋敷にくるみたいです」


ミラ 「お父様ったら…。きっと火の精霊祭で披露する魔法の練習ですわね…」


 パンを口に放り込みモグモグと食べていたライトは飲み込む。


ライト 「火の精霊祭…?」


マレイン 「火の魔法を使って芸術作品を披露する祭りだよ」


オリヴィエ 「父上はきっと今年も火鳥を披露するでしょうね」


ミラ 「ダイヤスファ国王は代々、火の魔法が得意ですもの!夜空に披露される火鳥…。ロマンチックですわ~」


 ミラは頬に手を当てウットリした顔で話すとチラリと横目でリリアを見つめる。


リリア 「へ~?折角、ダイヤスファ国に訪れたしみてみたいな~」


ネイリー 「そうだな。きっと綺麗だろうな」


 2人の反応にミラとオリヴィエは立ち上がると揃ってテーブルの上に両手を当てた衝撃で食器の揺れる音が鳴る。


ミラ 「私たち、王族は最後に披露するので是非、いらっしゃって下さい!!」


オリヴィエ 「ネイリー様!歓迎です!僕の火の魔法を是非見て下さい!」


 鼻息を荒くし話す2人にネイリーとリリアは顔を合わせ苦笑しながら頷く。


ミラ (早速、リリア様の為にハートを描く練習ですわ!)


オリヴィエ (よーし!赤い薔薇の花束を描く練習しないと!ネイリー様に送る赤い薔薇…ロマンチックだ~)


 上の空のまま2人は席に座るとあれやこれやとどのように演出をしようかと妄想をし始め顔がにやけていく。


ライト 「マレインも披露できるように頑張らないとな!」


マレイン 「うん。火の魔法は父上が何度も見せてくれてたからね。コツを掴んだらきっとすぐ扱えるよ」


 火の精霊祭に心を躍らせながら食事を楽しんでいた。


―――【2時間後】


 ライト達は旅の準備を済ませると玄関口へと向かっていた。


マレイン 「じゃあ、私達はそろそろ行くよ」


 「マレイン様、その服装でよろしいのですか?」


 執事はマレインの服装を下から上へと見ていく。普段、王宮内で着用する腰辺りまでの垂れるマントと刺繍が細かい服を着こなしていたが目の前に立つマレインの服装は単色の色をした服で身分から察するに如何にも庶民の服装だった。


マレイン 「うん。普段、着るような服だと直ぐに王族ってバレるからね」


 「歯ブラシは持ちましたか?毛布もあった方が…。あぁ、万が一の事を考えてもう少しやはり服はもう1着持った方が」


マレイン 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」


 ウロウロ歩く執事にマレインは苦笑する。


ミラ 「リリア様、もう行ってしまうのですか?」


リリア 「うん。ミラ、またくるね!」


ミラ 「いつでもお待ちしておりますから!」


 ミラはリリアにしがみつき、ぎゅぅっと抱き着くと腕を離し一歩下がる。ライト達は背中を見せドアを開くとオリヴィエは勇気を振り絞り前に出る。


オリヴィエ 「ネ、ネイリー様!!」


ネイリー 「ん?」


 声を掛けられネイリーは振り返る。


オリヴィエ 「あ、え、あ、えと…その…」


 モジモジするオリヴィエにネイリーは側へ歩き腰を曲げ頭に手を置く。


ネイリー 「弟のエルダーをよろしくな」


 互いに顔との距離は近くオリヴィエはネイリーの長いまつ毛に見惚れると一気に顔が真っ赤になる。


オリヴィエ 「は、は、は、ハイッ!!」


 頭を撫でられついつい声が裏返ってしまうがオリヴィエは心の中でお祭り騒ぎをしたくなるほどに気持ちが昂る。


 「ライト様、ネイリー様、リリア様、どうかマレイン様をよろしくお願いします」


 深々と頭を下げる執事にライトはニッと笑う。


ライト 「あぁ!マレインならもう、大丈夫だ!」


マレイン 「もう子供じゃないから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。じゃあ、行ってきます」


 マレインは手を軽くあげると外へと出かけていく。


 (マレイン様…。大きくなられましたなぁ…)


 マレインの背中を見つめながら執事は、幼少期の頃との面影を比較しミラ、オリヴィエと共に見送る。


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