第103話 菫乙女団


 日が昇り朝を迎えるとライト達が寝ている部屋に光がさしこむ。マレインが寝息の音を立てている中、ライトはベッドから起き上がる。


ライト 「あ…さ…か」


 呆然としながら窓から見える風景を見つめるとふと手首を確認する。


ライト 「―――あっ!封印装置が外れている!」


 手首に装着されていた能力封印装置は消えライトはベッドから飛び跳ねるように起きる。


ライト 「剣を握れるかな?」


 床に足をつけベッドの横に置いてある剣を握ると、鞘を抜かず縦に振る。


ライト 「おーーー!!剣が振れる!早速素振りしないと!」


 寝巻を着たままライトは部屋から出ると、屋敷の外にある庭へと向かう。廊下を走っている最中、朝が早いせいか人の気配は無くライトは角を曲がった瞬間


 「いたっ!」


ライト 「あっ!」


 背後から衝突してしまい、女性はバランスを崩し床に尻餅をつく。


ライト 「ごめん!ここからだとよく見えなくて!」


 赤色の髪をポニーテールに結んだ女性は痛みを感じながら立ち上がるとライトと顔を合わせる。


 「い…いいえ。それより…」


 女性はライトの姿を下から上へと確認していく。


 「寝巻の姿でどこに行かれるのですか?」


ライト 「ちょっとこの剣で素振りをしようと思ってさ!姉ちゃんはこんな朝早くにどうしたんだ?」


マリア 「私はミラ様専属の菫《すみれ》乙女団の隊長、マリアです。私も庭で自己鍛錬をしようと向かっていました」


ライト 「じゃあ、俺の相手になってくれよ!」


 髪をクシャクシャに掻くとライトはマリアの方へ手を伸ばす。


マリア (このお方が庶民校1席で卒業したライト様…。本当に強いのかしら?)


 髪はボサボサ、寝巻はヨレヨレになり如何にもアホっぽさを強調するライトの姿にマリアは疑問を抱くがふぅと息を吐くと伸ばす手を握る。


マリア 「まぁ、いいでしょう」


 2人の意見が一致すると屋敷の庭の方へと歩き出す。


 庭に辿り着くと日の光に照らされたパンジーの色鮮やかな花が綺麗に咲き誇り、何段にもなっている噴水の側で2人は一定の距離を離れると見合う。


ライト 「んじゃ、マリアの姉ちゃん!相手をよろしくな!」


マリア 「ええ。いつでも構いません」


 ライトは剣の鞘を抜き放り込んだ瞬間、マリアに接近する。


マリア (早いっ!)


 接近するライトの早さに驚くとマリアは手元からメラメラと燃える火を出す。


マリア 「火の剣ファイアーソード!」


 メラメラと燃える火は剣の形となった瞬間、ライトとマリアの剣が交じる。


ライト 「腕があんまり鈍ってなくて良かった~!」


マリア (近接攻撃の能力者と接近戦じゃ勝てない!)


 互いに剣が交じっても尚、ライトは余裕の笑みを浮かべる。剣が交じる中、マリアは一歩下がると火の剣を斜め下から持ち上げるように上げる。


マリア 「火の薙ぎ払いファイアーアウェイ!」


ライト 「あっつ!」


 マリアは火の剣を薙ぎ払うように振るうとメラメラと燃えた炎が舞いライトは後ろへと宙に舞う用に下がる。


ライト 「黒焦げになるところだった~!剣の衝撃波ソードショック!」


 剣を縦に大きく振ると歪曲した形の衝撃波を勢いよく放つとマリアは足元に茶色の魔法陣を出す。


マリア 「土の壁アースウォール!」


 ライトの衝撃波を受け止めた土の盾はマリアを守るが一瞬でボロボロに崩れていく。盾がボロボロに崩れていく中、隙間からライトが接近する姿が見えマリアは足元に水色の魔法陣を出す。


マリア 「水の弾ウォーターボール!」


 水の大きな丸い弾が放たれライトは気にせずそのまま突進する。水の中に入るとライトは息を吸えず全力で足を動かすが一歩も進まない。


ライト 「ゴボゴボゴボゴボ!!」


マリア (普通に突進するだなんて…おつむは弱いのかな…)


 息が吸えず苦しんでいると水の弾は大きく弾き割れるとライトの身体は勢いよく吹き飛ぶ。


ライト 「ゴホッ!!く、くるしかった…」


 寝巻や髪は水でビショビショに濡れ、横になっていたライトは地に手を当てヨタヨタと立ち上がる。


マリア 「次で決める!」


 ヨタヨタと立ち上がるライトにマリアは大きな魔法を繰り出すのに目を閉じ創造に意識を集中する。


マリア 「土の―――なっ!」


 マリアは目を開くとライトはあっという間に接近していた。宙に舞い剣を真上の位置で留めているライトの姿にマリアは創造を中断し足元に茶色の魔法陣を出す。


マリア 「土の壁アースウォール!」


ライト 「剣の2連斬りソードスラッシュ2!」


 頭上に盾を出すマリアだがライトは1秒の間に剣を2回振り粉々に崩れていく。


 マリアは崩れた盾の小さな石が顔にぶつかり横に倒れると、首元にライトが握る剣の刃を突き出され腕をあげる。


マリア 「こ…降参です…」


 両腕をあげるマリアにライトは手を前へ差しだす。


ライト 「いや~マリアの姉ちゃん!強かったな~!」


 さしだされた手を握りマリアは立ち上がる。


マリア 「いいえ。私もまだまだです…」


ライト 「ビショビショに濡れた時、何か魔法を溜めていただろ?あれで何か少しでも魔法出されていたら俺、負けてたわ!」


 ライトは髪をクシャクシャにヘラヘラと笑うがマリアは口元を歪ませる。


マリア 「これを機会に改めて鍛錬します。近いうちにダイヤスファ国の国立魔法兵の副団長がこちらに来る予定ですのでその時に稽古を要請して強くなります」


 ライトは放り投げた鞘を拾いあげ剣を収める。


ライト 「そん時にまた相手してくれよな!」


 日を後ろに目を細め笑みを浮かべるライトにマリアは目を大きく見開くと頬を赤らめる。


マリア 「え、えぇ。勿論です」


 庭でやり取りをしているとドアがバァンと大きく開く音が聞こえ振り返る。


ネイリー 「ライト!騒がしいが庭で何してるんだ!」


リリア 「寝巻のままで何しているの!あーぁ!服は泥まみれだし、髪は乱れているし!不潔でしょ!この馬鹿ライト!」


 2人は鬼の形相でライトに接近するとネイリーは頬をビンタし、リリアは思いっきり頭を殴る。ライトは横たわるとネイリーに背中を掴まれその場で正座をさせられる。


ライト 「ごべんなざい」


 戦闘では勇ましい姿を見せるライトだが、ネイリーとリリアを前に小さく縮まりマリアは思わず声を漏らし笑う。


マリア 「ふふっ。ライト様って面白いな」


 その後、カンカンに怒ったネイリーとリリアの怒鳴り声が庭に響き渡っていた。

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