第98話 スレンの風魔法


 リサとエルに別れを告げると、5人はついさっきまでマレインが稽古を受けた草原へと向かっていた。


 草原に辿り着くとライトは目の前に広がる見渡す。先程と変わらず景色は辺り一面、太陽に照らされた緑色の大草原に大きな木がぽつりぽつりと立ち、風が吹くと草が一斉にユラユラと揺れザァァと音が鳴る。


 空気が澄み緑色に埋め尽くされた大草原を前にスレンは目を閉じゆっくりと深呼吸を息を吐いた瞬間、大きく目を見開き片手を前に出す。


スレン 「竜巻サイクロン!」


 足元に緑色の魔法紋が出ると草原の真ん中にどでかい竜巻を詠唱する。


 近づいたら人間でもあっという間に身体を巻き込まれるほどの威力を持つ竜巻サイクロンにライトは興奮し両腕をあげ何度もジャンプする。


ライト 「でっけー!!」


 凄まじい威力の魔法にライトは興奮するが、次第に周辺に立つ大きな木はメキメキと音を鳴らし折れ始める。


 唱えた竜巻サイクロンが巻き込むのは木だけでは無く、地に生えていた草も地面から舞うと茶色の土が段々と見え、子供ながらにはしゃいでいたライトは違和感を感じ、身体がゆっくりと停止していく。


スレン 「……やりすぎた」


 スレンの呟く声が微かに聞こえ、ライト達はギョッとする。ライト達の髪や服は嵐が来たかのように強い風で乱れ呆然と立ちすくむ。


ライト (何か木が折れてないか…?)


ネイリー (ウィンド村の真ん中じゃなくてよかった)


リリア (今、やりすぎたって言わなかった…?)


マレイン (村が吹き飛ぶ勢いだ…)


 威力のある竜巻サイクロンは緩やかになり徐々に収まる。嵐のような風が収まると木は枝から折れ地に落ち、草が生えていた場所は所々、茶色の土が見え、艶やかな緑色に包まれた風景は荒れた地へと変貌した。


 ライト達はポカンと口を開け無言になる。


ライト (スレンの姉ちゃん…ウィンド村の人達にぶっ殺されるぞ)


ネイリー (ウィンド村の村長が観たら激怒するな)


リリア (うわ~~~…獣人族の大群が荒らしたみたい)


マレイン (これは……父上に内緒にしないと)


 髪や服が乱れた4人は目を丸くし目の前の光景を無言で見つめていると、スレンは背後に立つマレインの方へ向く。


 そして、変貌した荒れた地を新たな観光スポットのようにご案内するポーズのように腕をあげる。


スレン 「まぁ、少々荒れましたがマレイン王子。こんな具合で練習しましょう」


 キョトンとしていたマレインは名を呼ばれ我に返る。


マレイン 「は……はいっ!」


 声を掛けられマレインは咄嗟に反応しスレンの元へ駆け寄る。一方、他の3人は状況が未だに飲み込めず未だに目を丸くしたまま無言だった。


ライト (これ、少々なのか…?)


ネイリー (何か言い方の表現が違う気がするな)


リリア (塩コショウ少々みたいな言い方だ…)


 マレインはスレンの元へ辿り着くと深呼吸をし目を閉じる。


マレイン (スレン殿が繰り出した竜巻を創造イメージするんだ……)


 スレンが繰り出した竜巻サイクロンを頭の中で創造イメージすると大きな竜巻が脳裏に浮かびマレインは目を見開き両手を前に出す。


マレイン 「竜巻サイクロン!」


 マレインが手を突き出すと、足元に緑色の魔法紋が輝き氷が少し混じった小さな竜巻サイクロンが出来上がる。


スレン (んっ?……氷魔法?)


 マレインが繰り出した魔法にスレンは違和感を目を細める。


スレン (ダイヤスファ国の王族は代々、火の魔法が得意なはずだったような…。何故、不利な属性の氷魔法?でも、私のように雷属性の応用魔法が得意な者が産まれるレアケースもあるしな…)


 マレインが唱えた小さな竜巻サイクロンが収まると、スレンは顎に手を当てる。


スレン 「マレイン王子。元々氷魔法が得意だったのですか?」


 問われたマレインは首を横に振る。


マレイン 「いいえ…。父上に突然、氷魔法が得意な先生を紹介して貰い…」


スレン 「何方から氷魔法を習ったのですか?」


マレイン 「ええと、王宮内でエアリ先生に習いました」


スレン 「エア…リ……?」


 スレンは首を斜めに傾けると、浮かない顔をする。


スレン (王族に指導する教師なら、ダイヤスファ国で名の知れた人物のはずだ。はずなのに、マレイン王子が口にした名は―――)


 浮かない顔で黙り込むスレンにマレインは不安気な顔をする。ふむ…とスレンの声が漏れると再びマレインの顔を見つめる。


スレン 「氷の創造イメージが少々、強いみたいですが…」


 スレンの言葉にマレインは心臓がドクンとなりエアリ先生との指導を思い出し顔が真っ青になる。


マレイン 「エアリ先生から……ひたすら氷を見つめる指導を受けて…創造が強くなりました…」


スレン (氷を見つめさせる…?何故そのような指導を?理由がわからないな)


 マレインは囚われ続けている過去の出来事を思い出し震えた声で話すと、片手で肩をキュッと掴み目線を下にする。


 訪れた村で稽古をし段々と自信を取り戻したマレインだが、ライト達がダイヤスファ国に入国しまもない頃に出逢った頃のオドオドとした表情になっていた。


スレン (マレイン王子の様子が変だな。もしかすると、能力が低くなったのはエアリと名を名乗る者の指導と何か関係があるのかもしれない)


 表情や動作から如何にも不安な気持ちが漏れているマレインに察したスレンはそっと腕を触る。


スレン 「大丈夫ですよ。氷の創造イメージが少々強いだけです。何度か私が詠唱した竜巻サイクロンを元に創造イメージし続け練習していればその内、習得すると思います」


マレイン 「あ……。わかりましたっ!」


 スレンの言葉に不安気な様子を見せていたマレインは活気を取り戻し活き活きとした声で返事をする。


 そして、荒れた地に両手を前に突き出し竜巻サイクロンを詠唱する。


 初めの方は何度も小さな氷の粒子が入り混じっていたが、詠唱し続ける毎に氷は減っていき小さかった竜巻はどんどんと大きくなっていった。そして、時間が経過し空が夕焼けになった頃―――


マレイン 「竜巻サイクロン!」


 マレインは荒れた地の真ん中に竜巻サイクロンを詠唱する。スレンの威力と比べるとだいぶ劣るが、背丈が170cmあるマレインぐらいの竜巻サイクロンを詠唱し十分な大きさと威力だった。


スレン 「マレイン王子、お見事です。ここまで習得が早いとは思いもよりませんでした」


 拍手するスレンにマレインは頬を赤らめ髪をクシャクシャにする。


マレイン 「あ、ありがとうございます!12聖将のスレン殿にお褒めの言葉を頂き嬉しい限りです!」


 褒められ喜ぶマレインの肩をポンッとライトは背後から叩く。


ライト 「やったなマレイン!」


 肩を叩かれたマレインは振り返ると、ライト、ネイリー、リリアが一同拍手し微笑んでいた。


ネイリー 「残るはファイアー村のみだな」


 フフッと不気味に笑うネイリーにリリアは後ずさる。


リリア 「う…うん。ファイヤー…村のみだね…」


マレイン 「スレン殿!ご指導、ありがとうございました!」


 活き活きとした大きな声を出すマレインに対しスレンは首を横に振る。


スレン 「いいえ。マレイン王子の努力が実を結んだ、だけです。では、私はこれでお暇します」


 ライト達に背中を見せ移動が早くなる風魔法を詠唱し足元から魔法陣を出した瞬間、リリアは前に出る。


リリア 「スレン様っ!リサとエルのお母さまに手を貸して下さりありがとうございました!」


 リリアの大きな声にスレンは首だけ動かすと普段、無表情のスレンだがほんの少し口角が上がりニコリと笑い風を切るように風魔法でかけ走っていく。


ライト 「んじゃ、俺達も帰るか!今日の晩御飯は何かな~♪」


 スレンは瞬く間に姿を消すと、ライトは鼻歌を口ずさみウィンド村の方向に歩き出す。


ネイリー 「お前は本当に愉快な頭だな」


リリア 「どんなに辛い事があっても、ライトはご飯があれば生きていけそうだよね」


マレイン 「はは!ライトらしいね」


 鼻歌を口ずさむライトの後を追うように3人も足を動かすと、ウィンド村の正反対にある洞窟がふとマレインの視界に入り目を細める。


マレイン (んっ…?今、遠くの位置で誰かが動いたような…?)


ライト 「マレインー!お腹空いたから早く帰ろーぜー!!」


 ライトに大きな声で呼ばれマレインは振り返る。


マレイン 「あっ!うん!今いくよ!―――気のせいか」


 ボソッと独り言かのように呟くとマレインは洞窟から視線をそらしライト達の後を追う。

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