第97話 新入りのスレン


―――【時は遡り】


 12聖将に任命されたばかりのスレンは仁王立ちするライディールの前で正座する。


ライディール 「よしっ。新入り!名前を言え!」


スレン 「…スレン」


 スレンはボソボソっと小さな声を出す。


ライディール 「ん~~~?聞こえないぞ!」


 耳元に手を当てるライディールにスレンは目を逸らし再び口を開く。


スレン 「スレン・エルディ」


 先程、答えた声よりもやや大きくし自分の名を伝える。だが、ライディールは耳元から手を離す事は無く更に腰を曲げ正座するスレンの方へと近づける。


ライディール 「レンディ・エティ?」


スレン 「全然合ってない!スレン・エルディ!」


 もはや別名を口にするライディールに、スレンは感情的になり大きな声を出す。名前が聞き取れたライディールは耳元から手を離し腕を組む。


ライディール 「スレンか!よし、貴様は今日から我々と同じ12聖将だ!私の後をついてこい!」


 親指を立てると、目を閉じ自分の顔に向い指差すライディール。顔は自信に満ち溢れキラキラと輝いているかのようなドヤ顔。


ライディール (決まった…!見事にこのポーズを決めるのは男性イケメン部門1位(自称)の私しかいないであろう!ハハハハハ!!)


 ライディールは片目をチラリと開く。目の前で正座するスレンは熱い眼差しで感動している様子も見惚れている様子も無く無言で冷めた目をしていた。


 スレンはライディールを見つめ終えると、ため息を吐き目を逸らす。


スレン 「誰がお前の後に……」


ライディール 「口の利き方がなっとらんな~~!これだから若いやつは!」


スレン 「ふんっ」


 ライディールと目を合わす事もなく生意気な態度で返答するスレン。一時は怒るライディールだがその後、特に気にも留めずペンとメモを取り出す。


ライディール 「良いか?12聖将は闇を持つ魔王軍を討伐し、そして人々を安全に導くのが我らの任務だ!」


スレン 「はいはい」


 そっぽを向き手を追い払うように動かすスレンにライディールの額にシワが出来る。  


 先程の態度といい、ライディールは怒りが抑えられず片手でペンをへし折り、もう片方の手でメモをくしゃくしゃにし地面にバァン!と勢いよく叩きつける。


ライディール 「こんのガキ~~~!!私が一度、根性から叩き直すしか無いなぁ?」


 感情的になるとライディールは背負っている大剣に手を回し取っ手を握る。


 「こらっ!ライディール!スレン!」


 顎にもっさりとした白ひげ、髪は薄くはないが肩上まで伸びている白髪。年老いた男性がライディールとスレンの間に割り込む。年老いた男性の登場に2人は畏まりライディールは大剣の取っ手から手を離し、正座していたスレンは立ち上がる。


 「ライディール!スレンはまだ慣れていないんだ。少し大目に見てくれ」


ライディール 「で、ですが…」


 年老いた男性を前にライディールは両手を合わせ横目でチラリとスレンを見つめる。


 「スレン!少しはライディールの話を真面目に聞いてやれ」


スレン 「だってコイツ弱そうなんだもん」


 ライディールの顔に向い指を差すスレン。スレンの言葉にライディールはとうとう怒りが爆発し、額にシワが幾つも出来上がる。


ライディール 「んだと~~~!やはり根性から鍛えさせないといけないようだな~~?私と勝負だ!」


 ライディールは大剣の取っ手を握り刃を向けると、スレンは手の平からビリビリと紫色の雷を纏う。


スレン 「私とやる気?黒焦げにしてやるよ」


 「はぁ……」


 2人は競い合う事になった。そして勝負の結果―――スレンは負けた。ぐうの音も出ないほどに惨敗だった。


 魔法を詠唱してもライディールは目には追えない程の早さで突如現れ、やっと雷魔法が当たったと思えば身体全体にシールドを張られ、挙句の果てに身体は地面に叩き突かれた。


 手も足も出ないとはこの事なのだろうとスレンにとって体感した勝負だった。


スレン (師匠だけ各段に強いと思ったけど、12聖将ってこんなに強いの…?)


 スレンは息を切らし四つん這いで地面に這い着く。


 「スレン。わかったであろう?ライディールの強さを」


スレン 「……」


 年老いた男性は黙り込むスレンの肩に手を置く。手を置かれ四つん這いだったスレンは静かに身体を起こす。


 「新入りのお前の面倒を見てくれるんだ。ライディールはとっても良い人なんだ」


スレン 「わかった…。大人しく言う通りにする…」


 スレンは大人しくライディールの前で正座し、顔を俯ける。ライディールは目を閉じゴホンっと咳払いをする。


ライディール 「人を助ける時に特殊能力を使った場合、必ず金銭を支払って貰うように!貴重な能力だからな」


 スレンは顔をしかめ目線を下に移す。


スレン (何が貴重な能力だから…だ。そうやって金を持たない庶民のような弱い者を見捨てるんだ。これだからお貴族様は…)


ライディール 「まあ。表向きはこうだが、そんなもん回収しなくて良い」


 予想外の言葉にスレンは目を大きく開き顔をあげる。ライディールと顔を合わせていたもののスレンは常に目線を逸らしていたが初めて顔を見つめる。


スレン 「はっ?」


ライディール 「いいか!助けられる人が目の前に現れたら必ず助けろ!理由を聞かれてもごにょごにょ~と適当に誤魔化せ!ハハハハ!」


 腰に手を当てライディールは豪快に笑う。


スレン 「貴族なのに変わってる人…」


ライディール 「ん?身分は関係ないであろう」


スレン 「えっ」


 ライディールの言葉に度肝を抜かれ、勝手に思い込んでいた貴族のイメージが崩れていく。まさに開いた口が塞がらない状況だ。


ライディール 「貴族だろうが庶民だろうが同じ人間では無いか。それより!私は如何に人々を守れるかが肝だ!だから私の後についてこい!」


 ライディールは再び親指を立て自分の顔に指差す。またもやドヤ顔をするライディールにスレンはプフッと吹き出しお腹に手を当てる。


スレン 「あは、あははははは!!はいっ!」


 スレンはその後、言葉遣いや振舞を改善しライディールの厳しい稽古に励む日々が続いた。


 共に外出し人々を助け、そしてとある時は凶器な魔物を倒し…そんな日々が続いていたハズだがライディールの姪であるネイリーの話を散々聞いたり、時には丸1日中見守るだけの生活を送っていたりと振り回される事も多々あった。


 ただ時折、ライディールの言葉を思い返しスレンはいつも後をついていった。

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