第1-Ⅲ話 能力③

———【三時間後】


 日は落ち、時刻は夜となった。レイアはライトを寝かしつけると小さな窓から輝く星を横目で見つめ口元が緩む。ライトの頭上の横にある小さなテーブルから火が灯されているロウを持ちリビングへと向かう。


 レイアはロウを暗いリビングの上に置く。ロウと、かまどの火の灯りだけは物足りない部屋にルイエはランタンの灯りを灯し家族団らんで過ごすテーブルの上に置く。


 薄暗い部屋が一気に明るくなり、レイアは置いているロウに息を吐くと火は消え小さな煙が出る。


 視界が明るくなると、ルイエは椅子に座り、レイアはキッチンの方へと歩く。椅子に座ったルイエは息を深く吐き、キッチンの前に立つレイアの後ろ姿を見つめる。


 一方。レイアは鼻歌を歌いながらかまどの上に冷たい水を淹れたケトルを置く。そして食器棚からティーポットを用意しキッチン台の上に置き、紅茶の葉を中に入れる。ルイエはレイアの後ろ姿を直視すると眉を下げ、顔を俯ける。


 「レイア、ライトなんだが…」


 ルイエはティーポットにお湯を注ぐレイアに小さな声を出す。


 「あら、ライトがどうしたの?」


 ルイエの言葉に反応しながらレイアは手に分厚いミトンを手にはめると、湯煙の出るケトルの取っ手を握り、紅茶の葉が入ったティーポットにお湯を注ぐ。


 夫の口からは返答が無いが、レイアは特に気にも留めず鼻歌を歌い続けティーポットから紅茶をカップに注ぐ。ハーブの香りを放つ紅茶を注ぎ終えるとレイアは2つのカップを持ち運び静かにテーブルの上に置きルイエの対面に座る。


 「本当に俺たちの子なのだろうか…」


 取っ手を持ちカップの器が唇に触れた所でレイアの手が止まる。


 「はぁ…。あなた、あたしがライト出産する時に一緒に居たじゃない」


 レイアはため息を吐くと再びカップの器を唇に触れ少量の紅茶を喉に通す。


 「俺の子にしては能力がありすぎるんだ…。俺の子じゃな…」


 と、ルイエが言いかけるとレイアの目から大粒の涙がポロポロと零れる。


 「正真正銘あなたの子供よ…?」

 「ご、ごめん。疑って悪かったよ」


 大粒の涙を零すレイア。ルイエは罪悪感を抱きながら席から立ち上がる。レイアの側まで駆け寄ると屈みハンカチを渡す。


「本当にごめん…。レイア」


 レイアは渡されたハンカチで涙を拭くと目は赤く腫れていた。謝罪するルイエに頷くと気持ちが収まりティーカップの取っ手を握り紅茶を飲み干す。


 「あの子の容姿は私達、2人にそっくりじゃない?」

 「そうだな、あのそっくりなくせ毛と顔は俺の子だな…。目はレイアの色にそっくりだ」


 2人はライトの顔や目を思い浮かべる。肩上まで伸びている薄く黄色の髪色のくせ毛。そして薄く青い透き通るような瞳。浮かべ終えると2人は顔を合わせ微笑む。


 「あの子は産まれた時から…」

 「ああ。ずば抜けて能力を持つ…」


 2人は口を揃え「「天性てんせい能力者」」と同時に言う。


 「あの子の未来が楽しみでしょうがないわ」


 2人は我が子の将来を口角を上げたまま妄想する。ルイエは能力鑑定者に言われた言葉に引っかかるがライトが本当に国の騎士団になった姿。レイアは困った人々を救い出すヒーローになった姿。あれやこれやと、笑い声を出しながら妄想する2人だが、ルイエの笑い声がピタリと止まる。


 「ただこの貴族性社会に能力を易々と発揮させてくれないだろうな…」


 拳を丸くし不安気なルイエの手を覆うようにレイアは振れ、首を横に振る。


 「大丈夫、あの子ならきっと…」


 レイアは小さな窓から見える満天に輝く星を見つめ続け微笑む。


———【十一年後】


 ライトは学校を無事に卒業し16歳となった。背は伸び、体格も年相応にガッシリとし外見は成長期真っ最中の好青年。ライトは部屋の片隅にある小さなテーブルの前に行くと座り手を合わせる。


 「んじゃ、父さん、母さん行ってくるよ!」


 両親がいつも身に着けていたアクセサリーに挨拶をすると、玄関口まで走り扉を開ける。外は青い空が広がり、太陽はライトの姿を照らす。玄関外の地に足をつけると扉を勢いよく閉め全力で走る。


———部屋の中はライトの荒々しい行動に母の呆れたような声も、父の苦笑いする声も一切無く静まり返る。3年前、父と母は急に姿を消した。

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