第90話 努力の賜物


ライト 「あーーーー!!あれって"スレン"の姉ちゃんだろ!」


 ライトは目の前にあるスレンの銅像に指を差すと、大きな声で叫ぶ。


リリア 「何でここにスレン様の銅像が……?」


 ライトとリリアは銅像の側まで駆け寄り、手が届く範囲まで近づくと足を止める。胸の前で腕を折り敬礼する姿をした銅像は初めてスレンと顔を合わせたブルー村の時と同じポーズであった。スレンの銅像をあらゆる方角で見つめている2人にネイリーとマレインは肩を並べゆっくりと歩み寄る。


ネイリー 「そういえばスレン殿はウィンド村出身だったな」


 「「えっ!?」」


 ライトとリリアは目を大きくし口を揃えて声を出す。ライトは驚く反応を見せると、ウィンド村で歩く人々や家の外装を目で追うように確認する。


ライト 「ここは貴族が住む場所なのか?」


マレイン 「ううん。全員"庶民"だよ」


 返答にライトとリリアは顔を合わせ黙り込む。2人は学校の教師から圧倒的な戦闘力を持っていれば12聖将に就任する事も夢では無いと話されていた言葉をふと思い返す。


リリア 「じゃあ、スレン様は庶民で産まれながらも12聖将に選ばれたの?」


ネイリー 「そうだ。歴代の12聖将の中で就任された人物は身分が高い者が圧倒的に多いのだがな。稀に庶民で産まれながらも就任される者が存在する」


マレイン 「スレン殿はきっと人の何倍……何十倍も努力をした賜物で12聖将の地位を手に入れたんだと思うよ」


 マレインはそう呟くと銅像の腕を握りスレンの顔を見つめる。


 「あーーー!!君たちはっ!」


 聞き覚えのある声がする方向へ全員が振り向く。振り向いた方角にはダイヤスファ国に入国した際、送迎してくれた姉弟の弟であるエルがこちら側に指を差し立っていた。


ライト 「あっ!送迎してくれた!えーっと……名前なんだっけ!」


 エルはガクッと肩を落とす。頬を膨らませライトの目の前まで駆け寄ると自分の顔に指を差し間近まで迫る。


エル 「も~~!ライトったら酷いな!リサ姉さんの弟、エルだよ!エル!」


ライト 「エ…ル…かっ!そうそう、弟の…エ…ル!ジョウダンダッテ!」


ネイリー (絶対忘れてたな)


リリア (ライトの頭じゃ無理か)


マレイン (これは覚えていない反応だね…)


 片言でエルの名前を口にしたライトは、半笑で頭に手を回し髪を掻く。名前を忘れていた事にバレていないであろうと振舞を見せるライトに他の3人は本心を心の中で呟く。


エル 「でも…4人がどうしてウィンド村に?」


 マレインは腰についているマジックバッグに手を回し、中から物を取り出すとエルの前へ突き出す。


マレイン 「ウィンド村の人に風魔法を教わろうと思ってきたんだ。後はこの間、リサとエルに冒険者ギルドまで送迎してくれたお代の支払いも含めてね」


 日の光に照らされた金色に輝く金銭にエルはゴクリと息を飲むが目を閉じ首を横にブンブンっと勢いよく振る。


エル 「ううん!それは受け取れない!リサ姉さんとのポリシーで安全運転が出来なかった場合はお客様からお代を頂く事は遠慮しているんだ!」


 金色に輝く金銭にエルは手の平を出し、目を閉じながら顔を横に向ける。金銭を目の前に葛藤するエルだが姉弟の姉であるリサが光景を目の当たりにし手をあげる。


リサ 「あっ!ライト~、ネイリー、リリア~!!」


 微笑みながらリサは手を左右に振りこちら側へとステップを踏むように軽やかに駆け寄る。


リサ 「このあいだ振り~!何をしていたの?」


エル 「姉さん。この間の送迎代を払うって話しなんだ」


 リサもまたマレインが突き出す金色に輝く金銭を見ると、ゆっくりと首を横に振る。


リサ 「ん~~!それは受け取れないねっ!私達は安全運転をポリシーとしているから!」


 キッパリと断る言葉を述べるリサだが、マレインは金銭を手の上に置いたまま顔を見つめる。


マレイン 「じゃあ、こうしよう。2人共、私に風魔法を教えてくれないか?これは送迎代では無く指導料のお支払で」


 姉弟は顔を合わせると腕を組み黙り込む。次第に目を閉じ足を地にトントンっと鳴らし考え込むと2人は目を開け揃って頷く。


リサ 「じゃあ、今日1日付きっ切りで風魔法を教えるよ!」


マレイン 「ありがとう!よろしく頼むよ」


 マレインの手に置かれた金銭をリサは受け取り交渉成立となった。


エル 「魔物に追われていた人だよね?名前は?」


マレイン 「私は…マレーインって名前だよ」


リサ 「私はリサ!マレーイン!よろしくね!」


エル 「僕はエル!よろしくね!マレーイン!」

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