第91話 姉弟の風魔法


 ライト達はリサとエルの後についていくと、太陽に照らされた緑色の草が艶々と輝く草原へと移動する。


 風がサーッと吹くと、地に生えている草が一斉にユラユラと揺れライト、ネイリー、リリアは練習の邪魔にならないよう離れた場所へと草の絨毯に座る。


リサ 「マレーインは何属性の魔法が得意なの?」


マレイン 「私は…水、地は扱えるようになったけど一番は氷属性が得意だよ」


エル 「えっ!?水の応用魔法の氷属性!?凄いな~」


リサ 「色々な属性を扱えるマレーインなら風魔法を扱えるんじゃないの?草の上に転がっている石をこんな風に…浮けフロー!」


 リサは足元に薄い緑色の魔法紋を出し風魔法を転がっている石に向い詠唱する。そうすると石が空に浮く。


マレイン 「浮けフロー!」


 マレインもリサが詠唱したように転がっている小さな石に向い魔法を詠唱するが、石の輪郭に沿って薄い氷が出来上がり一瞬、空に浮くと5秒後に地に落ちる。


マレイン 「この通り、風魔法を詠唱しても氷魔法の方が強く出てしまうんだ」


 リサは空に浮いていた石の魔法を解くと地に落ち首を傾げる。


リサ 「氷魔法が強く…他の属性のように風の創造イメージを掴んだらすぐに習得できると思うよ!少しだけど地から浮いたしね!私が石を浮けフローを詠唱し続けるから創造イメージを掴んで!」


マレイン 「うん。わかった!」


 その後、リサが空に浮かした石をマレインは見続けていると10分ほどで創造イメージを掴み氷魔法が強く出る事は無く『浮けフロー』を習得した。


 そして、弟のエルは足元に風を出し素早く移動出来る風魔法『ウィンドステップ』を目の前で何度もマレインに見せる。最初、マレインが『ウィンドステップ』を詠唱した時は足元に9割風、1割氷が混じり移動は不安定だったが、こちらも創造イメージを掴むと30分ほどで魔法を習得した。


リサ 「マレーイン凄い!すぐ習得しちゃったね!これ以上、私達から教える事は無いかな!」


エル 「うんうん。この勢いだと徐々に重い荷物も空に浮かぶ事が出来るだろうし、『ウィンドステップ』でもっと素早く移動できるんじゃないかな!」


マレイン (よし、この勢いだと火属性の魔法も大丈夫だろうな)


 マレインは印象強かった氷の創造イメージが徐々に緩んでいき、確実に成長している事に喜ぶ。


リサ 「ねえ、皆!そろそろお昼ご飯の時間だし食べにいかない?オススメの飲食店があるんだ!」


エル 「リサ姉さん、あそこだね!皆、いこうよ!」


 姉弟はマレインと草の絨毯に座るライト達の方を交互に見つめる。見つめられている中、ライトは即座に立ち上がりすごい剣幕で近づく。


ライト 「食べにいこうぜ!ウィンド村は何があるんだろうな~…」


 ライトは青い空を見上げどのような食べ物があるのかとアレやコレやと想像する。青い空が広がる中、ちらほらと雲があり見つめているとオムライスの形、メロンクリームソーダのようなジュースの形などに見えてしまい、ついつい唇からヨダレが零れる。


 はたから見ると食べ物の事ばかり考えるているライトだと思われがちだが、マレインのお腹からグゥ~と音が鳴る。


マレイン 「私もお腹が空いたな…」


 小食なマレインから思いも寄らぬ言葉が口から出るが、ライトは笑う。


ライト 「やっぱ、マレインも男だから俺と一緒で腹が減るんだよ!」


ネイリー 「お前程、頭の中が食べ物ばかりではないだろうがな」


リリア 「そうそう。でも…私もお腹空いちゃったー!」


 照れくさそうに笑うリリア。リサとエルは顔を合わせると微笑ましい光景に口角があがる。


リサ 「んじゃ、飲食店に向かおー!」


エル 「僕たちについてきて!」


 姉弟を筆頭にライト達は背後から後を追うように歩き出す。


 飲食店に向う最中、ライト達は辺りを見渡す。ウィンド村で暮らす人々は送迎用の乗り物を整備したり、はたまた羽振りの良い貴族専用の乗り物を製作したり、荷物が沢山乗るようにコンパクトなトラック型の形をした整備をしたり…と改めてウィンド村は送迎や荷物の運搬に特化している村なのだなと目の当たりにした光景だった。


リサ 「ここがオススメの飲食店!安くて美味しいんだ~♪」


 辺りを見渡している間に飲食店の前まで辿り着き、ライト達は『ウィン・ドット店~ウィンド村の家庭的な味を~』と書かれた看板を見上げる。


ライト 「ウィンド村の家庭的な味!どんな料理なのか楽しみだな!」


 鼻歌を口ずさむライトを見たリサは早速、店のドアを押し店内へと入店する。


 「リサ、エル!うちの店に来てくれたのかい?嬉しいね~…おや?今日はお友達が多いようだね」


リサ 「おばさん!いつもの料理を6人前よろしく!」


 「は~い。そこの大きなテーブルに座って待っててね」


 リサがおばさんと呼んだ人が横に長いテーブルに指を差すと6人は席につく。


エル 「どんな料理がくるかはきてからのお楽しみだよっ♪」


 椅子に座るリサとエルは足を組むと、片足で床を鳴らし待ちきれない様子をしていた。


リリア 「ねね。リサとエルは私達より幼く見えるけど働いているの?」


リサ 「私は14歳で弟のエルは13歳なんだ~」


エル 「今は学校が長期休暇だからね!少しでもお母さんが楽になるように稼がないと生活がキツイんだ」


 リリアの問いに姉弟は返答すると顔が曇る。


マレイン (この2人は幼いのにもう働いているのか。私は今までこの国の何を見ていたのだろうか)


 2人の生々しい話に、マレインは胸に手を当てると服を力強く握りしめる。

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