第89話 いざウィンド村へ


ライト 「おっ!何だか緑色の物体が増えてきたな!」


 左右の木に挟まれながら4人は馬車が通る通路を歩く。


ネイリー 「空気が澄んでいるな」


リリア 「森林の匂いって何だか癒されるよね~♪」


マレイン 「そろそろウィンド村に近いからね」


 ライトは空をふと見上げると木の葉が陽射しを遮り、自国に比べ暖かい気候のダイヤスファ国だが汗を流す事も無く適温を維持したまま歩き続ける。森林の匂いにリラックスしながら歩く4人の内1人であるライトは辺りの風景に見覚えがあるような…と首を傾げる。


ライト 「ん…?そういや、この風景どこかで…」


 ライトは顎に手を当て記憶を遡る。以前、ネイリーと共に行動したサファイアローメン国に位置するグリーン村の風景を思い出すと指をパチンッと鳴らす。


ライト 「あっ!思い出した!グリーン村に似ている!」


 納得のいく答えが見つかるとライトはニッ!と笑い如何にもスッキリした顔をする。


ネイリー 「ああ。ライトと初めて依頼を受けた場所か」


リリア 「へ~?ネイリーと初めて同行したのってグリーン村の依頼だったんだ~」


ライト 「確かグリーン村の側にある洞窟に"魔獣ゴブリン"がいたっけ。アイツ食い過ぎでデカくなったんだよなー!きっと!」


 ヘラヘラと笑ながら話すライトにマレインは横に首を動かし目を大きくする。


マレイン 「ま、ま、ま、ま、魔獣!?!?」


 落ち着いてもいらない程にマレインは動揺しライトの両肩を掴む。


マレイン 「も、勿論逃げてきたんだよね!?!?」


 マレインに身体を揺さぶられるライトだが、気の抜けた顔で首を斜めにする。


ライト 「へ?普通に倒したぞ?」


マレイン 「えっ!?魔獣を!?いや、そんな馬鹿な!!えっ!?」


 壊れかけた機械のようにマレインは反応をする。動揺しているマレインの姿にネイリーとリリアは"これが普通の反応だ"と頷く。


マレイン 「魔王軍と対等に戦えるのは12聖将がもつ特殊能力だけのハズじゃ!?」


ネイリー 「マレイン、私も驚いたがライトは何か特別な力を持っているようだ」


リリア 「私もブルー村の依頼で同行したけどライトは魔王軍に対立出来る能力を持っているみたい」


 マレインは後ろに立つ女性組2人の方へ首を動かすが、茶化すような笑みも無く、表情は至って冷静だった。動揺していたマレインは2人の反応に本当の話なのだろうか…と冷静さを取り戻す。


マレイン 「ライトが特殊能力を所持している…か。真実なら今まで年百年も伝えられてきた"12聖将誕生"の歴史がひっくり返るな…」


ネイリー 「私も初めてライトの能力を感じた時はマレインと同様だった」


リリア 「うん。私も最初、ネイリーから話を聞いたけど疑うぐらいに驚いたしね。でも…私達はライトの能力を実際に感じたよ」


 にわかに信じがたい話だが、ライトと共に行動し実際に”特殊能力”を扱う場面を直視した2人の言葉に疑う理由も無くマレインはようやく冷静を取り戻す。


マレイン 「明日、ダイヤスファ国にある書物庫に行ってみよう。あそこなら"12聖将誕生"の書物が保管されているハズだよ」


 マレインの提案にライトは首をブンブンと横に振る。


ライト 「えー!また字を見るのか!ミラの朗読で懲り懲りだ…」


ネイリー 「ライトは少し頭も使え」


リリア 「そうそう!このままじゃ野生本能丸出しの獣人族みたいになるよ!」


 背後から女性組の言葉が背中に刺さりライトは頭に手を回す。


ライト 「ッチェー。わかったよー」


 足を止めていた4人は再び足を動かし、ウィンド村へと向かう。道を歩いている間、マレインは顎に手を当て顔を俯け考え込む。


マレイン (ライトは本当に特殊能力を扱えるのか…?)


 横目で呑気に口笛を吹くライトの顔をマレインは見つめる。


―――【1時間後】


 歩き続ける事、1時間。ようやくウィンド村の門前まで辿り着いた4人。門前に見張り役はいるが平和ボケのせいかあくびをしながらその場で立つ。


ライト 「ここがウィンド村かー!」


 門の上にある看板を見上げると枠にカラフルな花が描かれ大きな字で"ようこそ、ウィンド村へ"と書かれていた。如何にも観光地として歓迎しているような看板だ。


リリア 「何だか凄い派手だね…。これからお祭りでもするのかなぁ?」


 頬に手を当て首を傾けるリリアにマレインは首を横に振りフフッと笑う。


マレイン 「ううん。ウィンド村は有名な村なんだよ?」


 笑うマレインに初めてウィンド村に訪れるライトとリリアは首を傾げる。考え込む2人だが真顔だったライトが急に一変し不気味にフッフッフと笑う。


ライト 「ふむ、なるほど…。わかってしまったようだ…!」


リリア 「へ~?何が?」


 問われたライトは目を閉じると腕を組む。


ライト 「ここはきっと”美味しい土産”があるんだ!」


 「「「……」」」


 ドヤ顔で答えるライトだが、3人は冷めた目で黙り込む。歪な生物がいるかのように3人はライトを見つめ終えるとため息を吐く。


ネイリー 「それはお前が食いたいからだろ…」


リリア 「もうっ!ここまできて食べ物を話しをするだなんて!」


マレイン 「ライト、真っすぐを見てごらん」


 マレインは真っすぐ人差し指をさす。指をさした先にはある人物の銅像が大きく建てられていた。ライトは銅像を直視すると直ぐに見覚えのある人物の名が頭に浮かぶ。


ライト 「あーーーー!!あれって"スレン"の姉ちゃんだろ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る