第88話 ハンカチとは…


ネイリー 「モノづくり…。ファイヤー村に興味があるな…」


 ボソッと呟くネイリーの言葉を聞いた瞬間、ライトとリリアは身体がビクッとし、互いに目を合わせ首を振る。物を作っては得体の知れない物体が完成してしまう、呪物を作る天才と称号を与えたい程のネイリーに恐怖心を抱く。


マレイン 「そういえば、ネイリーはモノづくりが好きだったよね。初めて逢った頃に貰ったハンカチだけど持ってるよ」


 ライトとリリアは視線を合わせ目を大きくする。ライトは素早くリリアの元へ駆け寄り耳元に手を当て口元を近づける。


ライト 「ネイリーが作ったハンカチを持っているらしいぞ!マレインは何か脅されているのか!?」


リリア 「さ、さぁ…?ネイリーが作った物を大切に何年も保管している人がライディール様以外にいたんだ…」


 2人は小さな声で話す。ヒソヒソと話す2人のやり取りに気付かずネイリーとマレインは目を上にあげる。


ネイリー 「そうか。マレインにも渡していたな」


 ネイリーとマレインはふと過去の出来事を思い返す。


―――【10年前】


 時は遡り、6歳となったネイリーはダイヤスファ王国の王宮内へと家族で訪れる。幼いネイリーは客の間に通されると、同い年だと前々から両親に話されていたマレインと初めて顔を合わせニッコリと笑う。


ネイリー 「サファイアローメン国、第一王女のネイリーともうします!」


マレイン 「ダイヤスファ国の第一王子、マレインともうします」


 幼い2人は丁寧にお辞儀をすると、互いに名を名乗り自己紹介をする。


ネイリー (時期王たるもの、他の国とユウコウ関係をキズキアゲないと!)


マレイン (この子がサファイアローメン国のオヒメサマ…。オウゾクたるもの、ナカヨクしないと…)


 幼いながらに2人は国のためになる行動を必死に考える。お互いに姿勢は背筋をピンと伸ばし傍目から見ても誰もが緊張していると伝わる程に2人はカッチカチだった。


ネイリー 「そうだ!マレインさまにユウコウのアカシでハンカチを作ってきました」


マレイン 「えっ!?ネイリーひめが作ったのですか?器用なのですね!」


 使用人が綺麗にリボンを結びラッピングした袋をネイリーは手に持ち前へ突き出すと、マレインの顔から笑顔が零れ受け取る。マレインは丁寧にリボンをほどいていくと、中にはビリビリに破った布を糸でつなぎ合わせたハンカチとやらを手に取る。


マレイン 「これは…ハンカチ…ですか?」


 普段、使用するハンカチから大きくかけ離れた物にマレインの思考は停止する。


ネイリー 「そうです!おかあさまから教えてもらいました!」


 首を傾け微笑むネイリーの指先を見つめる。指先には包帯が巻かれ何度も一生懸命に作ったのだろうと…子供ながらに察したマレインは受け取ったハンカチを見つめると笑みが零れる。


マレイン 「とても――――」


 幼い2人のやり取りに周りの使用人たちは微笑ながら光景を眺めていた。


――――――――――――――――――


 2人は初めて顔合わせした、懐かしい光景を思い返すとにこやかになる。


マレイン 「ネイリーの作った物はとても個性的で良いよね」


ネイリー 「まぁな。唯一、女としてアピール出来る所だ」


 マレインの発言にライトとリリアは耳を疑う。


ライト 「リリア!やっぱネイリーが作る物は王族や貴族でいうゲイジュツサクヒンって奴なのか!?俺達が普段見ているのは本当は下手でやっぱアレが本当のゲイジュツなのか!?」


リリア 「え、えー…。ネイリーが作ったハンカチをライトから見せて貰ったけど、貴族が住むシルバー街でお買い物をしたけど私達が普段見るハンカチより刺繍や色合いが細かくて綺麗だったよ…?」


 2人は正しいハンカチとは何が正解なのかネイリーが作る呪物で思考が鈍る。


ライト 「なぁ!リリア!ハンカチって何なんだ!?ハンカチって何か拭くモノじゃないのか!?本当は誰かを呪う道具なのか!?」


リリア 「ハンカチはハンカチでしょっ!えーっと…四角の形で綺麗な…アレっ?本当は魔除けの道具だっけ!?ハンカチって獣人族を退ける道具だっけ!?」


 2人の頭の中にネイリーが作ったハンカチが映る。普段見かけるハンカチを思い浮かべようと考え込むがネイリーが作ったハンカチのインパクトが強く頭を悩ませる。


ライト (ハンカチはビリビリに破けた布を糸で繋いで…イヤイヤ!羊のマークの正体はゴブリン…じゃない!!ハンカチって何なんだーーー!?)


リリア (えっと、ハンカチは呪いの道具で…ううん、違う!獣人族のマークがインパクトで…あーーー!!ハンカチって何だっけーーー!!)


 もはやハンカチの基準とは何なのか…と原型のあり方も考えれば考える程、疑問が生じ頭を抱える2人だが、悩んでいるとも知らずにネイリーは不気味に笑う。


ネイリー 「ふふ。ファイヤー村に訪れるのが楽しみだな。どのようなモノづくりがあるのだろうか…」


 ネイリーはブツブツと独り言を呟きながら自分の世界へと入り、目を輝かせながら妄想に浸っていた。


ライト 「なんだかファイヤー村に行くのが…」


リリア 「憂鬱になってきたね…」


 果たしてどのような呪物が完成するのか…2人は想像するだけでも嫌気をさす。その晩、ライトとリリアはでネイリーが不気味な笑みで呪物を完成する夢の中に現れベッドの上でうなされていた。

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