第76話 次の村へ


 朝食を済ませるとライトは膨れ上がったお腹をポンポンと叩く。


ネイリー 「マレイン、今日はどこで修行をするのだ?」


 ネイリーは食後に用意された紅茶のカップを持ちながら、隣に座るマレインの方へ向き質問をする。


マレイン 「今日は土魔法が得意なアース村に向おうか」


 紅茶を優雅に飲むリリアはカップを持つ手が止まり、スレンとの特訓を思い出し顔が強張る。


リリア 「土魔法…」


 紅茶のカップを皿の上に軽く置くとカチャと音が鳴り、ライトは手を叩く。


ライト 「あぁ~!12聖将のスレンの姉ちゃんが出していた―――」


ネイリー 「土魔法か!!どんな魔法なのか楽しみダナー!!」


 ライトの声をかき消すかのようにネイリーは鋭い目で大声を出す。ライトはネイリーの視線に気づき凄まじい剣幕に委縮し目を逸らす。隣で大声を出すネイリーにマレインは首を傾げるが気のせいか…と紅茶を飲みカップを皿の上に乗せる。


マレイン 「そうだね、1時間後に出発しようか」


 耳を大きくさせ会話を聞いていたミラは席から立ち上がる。そして、隣に座る花が咲き誇る妄想のビジョンが映るライトの方向へ振り向く。


ミラ 「ライト様!食後の休憩を済ませたらまた、ロマンス小説に文章の動き、セリフの練習をしましょう!」


 ライトがアース村に行くのを阻止するかのように強い口調で話す。だが、ライトはミラの提案に気が乗らず目を逸らす。


ライト 「あ…あぁ…その…とりあえず休憩したらな!」


 ライトは席から立ち上がると、ミラの方へ振り向かず曖昧な返答をする。そして、早々に食堂の場から一目散に立ち去る。


ミラ (ライト様ったら恥ずかしいのですわね!今日はどのようなセリフを言って貰おうかしら!)


 一目散に立ち去るライトの後ろ姿を眺めながらミラは左右の頬に手をあてる。今日はどのようなときめくセリフ、動作をライトにして貰おうか…とミラは思い浮かべる。妄想がどんどん膨らみ興奮すると心の中でキャーキャーと叫ぶ。


―――【1時間後】


 アース村の出発時刻となり食休憩を自室で済ませたマレインは扉を開け玄関口へと向かう。玄関口には既に2人の姿があり、朝食の話を弾ませていた。


マレイン 「ネイリー、リリア、おまたせ」


 会話を弾ませていた2人はマレインの声に気付き視線を移す。


ネイリー 「あぁ。ライトはミラのロマンス小説の朗読に付き合わされているのか?」


 玄関口にはライトの姿は見当たらず、ネイリーは首を傾げる。


リリア 「ん~…そうなのかも?」


マレイン 「そういや、朝食を済ませてから見かけていないな」


 玄関口で立ちすくむ3人。遠くでバタバタと立てる音が聞こえ、1秒、2秒、3秒と時間が小刻みに経つにつれ段々と音は激しくなり3人は視線を移すと―――凄い剣幕で猛ダッシュするミラの姿が徐々に近くなる。ピンクのリボンで可愛らしく縛ったツインテールはヒラヒラとなびく所か、ムチのようにバシバシと残像が出来る程の早さで動き、もはや凶器となっていた。


ミラ 「ハァハァ…。お兄様…ライト様はどちらに?」


 廊下の上で激しく音を立てたミラは玄関口に辿り着くと、膝に手を当て息を切らしながら話す。


マレイン 「あれ?ミラとロマンス小説の朗読をしているのでは…と3人で話していた所だったよ?」


ミラ 「逃げられましたわね…」


 3人に聞こえない程の小さな声でミラはボソッと呟く。


ネイリー 「朝食で何度もおかわりをしていたからな…」


リリア 「食べすぎでお腹を下したのかも?」


 膝に手を当てていたミラはようやく息が整い顔をあげる。


ミラ 「そうですわ!きっとまだこの屋敷にいますわ!」


 玄関口にライトの姿は無く、"屋敷の中にまだいるはずだ"と確信したミラは手を合わせる。


マレイン 「じゃあ、私達はアース村に向うよ」


ネイリー 「そうだな。ライトはミラに預けよう」


ミラ 「えぇ!お兄様、ネイリー様!それに…もお気をつけて!」


 ミラは柔らかな表情でマレインとネイリーの名前に口にする。だが、円滑にライトの話を語るリリアを"恋のライバル"と勝手に思い込み、わざと低い声で名を強調する。


リリア 「ミラ様。ライトを見掛けたら沢山朗読させてね」


 引きつる顔で笑みを作るミラだが、リリアが優しく微笑むときょとんとする。


ミラ (あれ…?リリア様が私とライト様の恋仲を応援してくれている?リリア様って本当は良い人なのかしら…)


ミラ 「わかりましたわ!では私はライト様を探してきますわ!」


 ミラが手を大きく振ると背中を向け、廊下の上でバタバタと激しい音を立て猛ダッシュする。


マレイン 「じゃあ、行こうか」


 3人は玄関口の大きな扉を押し、外に足を踏み入れた瞬間だった。


ネイリー 「んっ?———!」


 話すネイリーの口を何者かが方手で塞ぐ。


リリア 「どうしたの?———!!」


 そして、次に空いている方の片手でリリアの口も塞ぐ。


 マレインが背中を見せ玄関の扉を閉めると、身体を180度回転する。シーッ!と小さな声を出す人物に驚く。


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