第75話 寝相の悪さ


―――【翌日】


 マレインは瞼を半分開く。瞳に太陽の光が差し込み起き上がる。


マレイン 「朝…か」


 2階から大きな窓をふと庭を見下ろす。3段ある噴水からはザーッと流れ続ける水の音。そして、色鮮やかなバンジーが太陽の陽射しに照られ蝶々がヒラヒラと舞う。


 寝起きのマレインは呆然としながら窓を覗くと意識がハッキリし、隣で就寝しているライトの方向へ振り向く。


 ベッドのシーツはぐちゃぐちゃに乱れ、枕は絨毯の上に落ち、挙句の果てに寝巻から腹を出す始末。就寝した時に枕が置いていた場所には足があり、どうやら寝ている間にライトは180度回転していたらしい。


マレイン (ライトの寝相凄いな…)


 思わずマレインはライトの寝相の悪さに苦笑しながら見つめる。フフッと笑うマレインの声に反応したライトは瞼を完全に開く。


ライト 「朝…だ!」


 普段なら朝に弱いライトは意識がもうろうとしながら目が覚めるが、今回ばかりは完全に起き上がる。


ライト 「おはよう!マレイン!このベッド、フカフカだからよく寝れた~!」


マレイン 「おはよう、ライト。それは良かった」


 マレインが微笑むと、ライトはフカフカのベッドの上で再び横になる。


ライト 「は~~~。いつもの硬いベッドより良い―――クカーー!」


 完全に目が覚めベッドの質をもう一度、体感しようと横になったライト。しかし、油断が仇となり2度目の眠りにつく。


マレイン (まだ早い時間帯だし、このまま寝かせておこう)


 2度寝にするライトにクスクスとマレインは笑い、再び窓を眺める。太陽の光はダイヤスファ国の建物を照らし続ける。


―――【2時間後】


 マレインとライトは顔を洗い、髪を整えると寝巻から、1つも残らないシワの服に着替え食堂に向う。


ライト 「ふわぁぁ~~二度寝しちまった…」


マレイン 「きっと疲れていたのだろうね。朝食を済ませたら元気になるよ」


ライト 「昨日食べたオムライス美味しかった!今日も楽しみだな~!」


 鼻歌を歌うライトと隣で微笑むマレインは廊下に敷かれている青い絨毯の上を歩く。2人が食堂に向っている最中、扉がカチャと開きネイリーとリリアに鉢合わせする。


ネイリー 「2人共、おはよう」


リリア 「わっ!ライト起きれたんだ!おはよう!」


 女性の2人はライトとマレインの顔を交互に見ると、低い位置で手をあげ挨拶をする。


ライト 「2度寝しちまったけどな!」


マレイン 「2度寝した時は驚いたけどね。でも、その後ライトに『朝食の時間だよ』って伝えるとすぐに置きたよ」


 ネイリーとリリアは顔を合わせると盛大に笑う。


ネイリー 「ライトは朝に弱いからな」


リリア 「ご飯ってワードを出すと飛び跳ねるように起きたでしょ?」


 マレインは頷きながら笑う。


マレイン 「やはり、一緒に旅をしている2人は、ライトの事を良く知っているんだね」


 男性と女性組で鉢合わせた場で4人は留まり他愛の無い会話をする。しかし、ライトは早く朝食を食べたいが為に気持ちが先走り足を動かすと、背中を向けたまま顔だけ振り返る。


ライト 「そんな事よりさ!早く飯を食べにいこうぜ!!」


 その場で留まる4人はライトを先頭に食堂へと向う。


 階段を下り、廊下を歩き続けるとようやく食堂に並ぶ対面のテーブルが見えライトは一目散に走りくぐり抜ける。


ミラ 「あっ!ライト様!おはようございます」


 既に席についていたミラはライトの姿を見掛けると輝いた瞳で微笑む。


ライト 「あぁ!ミラ、おはよう!」


ミラ 「ライト様!昨夜同様に私の隣にお座り下さい!」


 ミラは隣の席に手を伸ばすとライトは両手を頭の後ろに組み向かう。


ライト 「ミラは早起きなんだな」


 ライトはミラが手を伸ばした隣の席に着席する。隣に座るライトの方へミラは振り向くと回りに花が咲き誇る妄想のビジョンが映り頬を赤らめ手を当てる。


ミラ 「いえ、そんなこと…」


 ライトから目を背けるとミラはガッツポーズをする。


ミラ (ライト様の隣に座る為、今日は早起きしたのですもの!今日もロマンス小説を読んで頂かないと!)


 ミラの思惑を知るはずも無いライトは料理が運ばれてくるテーブルをひたすら見つめる。全員が着席すると使用人、執事が料理の皿をのせたカートを引き背後から一声かけると皿を置く。


 香ばしい匂いのパン、バター、コーンの匂いが漂うスープ、スクランブルエッグと焼いたベーコンが置かれ種類の多さにライトは驚く。


ライト 「朝から豪華だなーー!!いっただきまーす!!」


リリア 「いただきます!このパンから香ばしい匂いがするー!」


 香ばしいフカフカのパンに手を伸ばし口の中へ運ぶと、硬いパンを食べ続けていたライトとリリアは感動の余りに顔が輝く。


ライト 「う、うまい…!俺、こんなフカフカなパン食べた事ない…」


リリア 「フカフカなパンにバターを塗ると美味しいー!このコーンのスープもほのかな甘みで美味しい~!後で食べた食事のメモを忘れないようにしないと!」


マレイン 「おかわりもあるからね。沢山食べてね」


 ライトは次から次へと料理に手を伸ばしながらコクコクと頷く。その日も、ご飯を口にしては庶民のライト、リリアは美味しいと何度も口に出し笑顔の絶えない食事を楽しんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る