第71話 山火事


 山火事が起きたウォーター村の外れまで全員、全力疾走する。各々、詳細がよく分からず「何故、山火事が」、「どのくらいの規模なのか」、「皆は無事だろうか」、と口にしたいがそんな余裕も無く息を切らせながら走り続ける。


 走り続ける事、20分。息が苦しくなり、呼吸を整えたい気持ちが一杯だが人の集まりが見え始め例の現場がそろそろであろう…と誰もが思った瞬間だった。広範囲でメラメラと木や草が燃え真っ赤となる風景を目の当たりにすると息が苦しいなども感じる余裕すらもなくなり、人が集まる場所へと更に全力疾走で走る。


レイラ 「ハァハァ…こんなに燃えている!!」


 ようやく、人が集まる位置まで辿り着くとすぐ側で燃えている熱気が伝わる。周囲に集まる大勢の人は火を消そうと水の線ウォータービームを詠唱し続ける。


 「レイラがようやく辿りついた!」

 「火が全然、収まらない!」

 「水の線ウォータービームを止めちゃだめだよ!」


レイラ 「私も加勢します!水の線ウォータービーム!」


 レイラは周囲の人達よりも太く、そして長い水の線ウォータービームを詠唱する。左右や上に傾け奥の方へと色々な方角に向けるがそれでも火はメラメラと燃え上がる。


マレイン 「私も加勢するよ!水の線ウォータービーム―――」


―――魔法たるもの氷が一番です!


 マレインが水の線ウォータービームを詠唱しようと構えると、また昔の記憶が蘇り氷の線が出来上がる。出来上がった氷の線は火の中ですぐに溶け消火すら出来ない威力だった。


マレイン 「クッ…!また氷を創造してしまう!」


レイラ 「水の弾ウォーターボール!」


 大きな水の弾ウォーターボールが出来上がり、レイラは火の中へと放り込む。火の中へ到達すると地面に当たり水の弾ウォーターボールは風船のように割れ広範囲で水がはじく。


 「手前の方は消火してきたな!後は奥の方だ!」


 大勢の人が消火した箇所に足をつけ、メラメラと燃え続ける場所に詰め寄る。


レイラ 「これで終わりに!水の弾3連ウォーターボール3!」


 レイラは大きな水の弾ウォーターボールを一気に3つ作り上げると火の中へ放つ。先程の1つより広範囲で割れ水しぶきが上がる。水しぶきで視界がぼやけるが、大勢の人はこれで消火しきれただろう…と安心する。だが、まだメラメラと燃え続ける箇所がありレイラは体力を使い果たし、膝をつく。


レイラ 「そ、そんな…」


 周囲の人達も水の線を詠唱し続け、体力が消耗し疲れ果てバタバタと膝をつく。マレインは光景を目の当たりにし、居てもたってもいられず水の魔法を詠唱しようと再び創造する。


マレイン 「水の弾ウォーターボール!」


―――氷が一番美しいのです!


 カチコチに凍った氷の弾が出来上がり、地面に当たるとバリンっ!皿が割れた音が鳴るが、メラメラと燃える火の威力の方が勝り消火する事もなくただただ火に弱い氷が解けていくだけだった。


マレイン 「私は!!どうしてっっ!!」


 マレインは自分の弱さも、何よりも自国の民すらも助ける事が出来なく目から大粒の涙を零す。


マレイン (悔しい…目の前の人すら助ける事が出来なくて悔しい!私はどうして―――こんなにも弱いんだ!!)


 顔を俯け、しわくちゃになりながらマレインは大粒の涙を流す。


 「誰か助けてー!!」

 「誰か~~!!ゲホッゲホッ!」


 涙を流すマレインの耳に小さな子供が必死に叫ぶ声が聞こえ、俯いていた顔をあげる。


 「おい!あそこに逃げ遅れた子供がまだいるぞ!!」


 マレインは男性が指を差す方向に振り向くと、奥の方で火に囲まれ逃げ遅れた子供が咳き込む。


 「でも、もう体力が…」

 「もう魔法が使えない…」

 「クソッ!どうしたら良い!」


 水の線ウォータービームを詠唱し続けていた人々は魔法を詠唱する体力が残っておらず、火に囲まれた子供を見続けるだけだった。子供は咳き込み、そろそろ服に火がついてもおかしくない位置で座り込む。


レイラ 「マレーイン様!あの噴水で感じた水の風景を思い出して下さい!私はもう…魔法が使えません。どうか…!!」


 レイラは必死に涙をこらえるが、目から1つ、2つ…と少量の涙を流す。マレインは涙を拭い、頷くと火が燃え続ける位置まで駆け寄る。


マレイン (あの噴水の水の流れ…音…創造するんだ…。子供を絶対に守るんだ!!)


 マレインは構えると、足元に青い魔法陣を出す。


マレイン 「水の線ウォータービーム!!」


 魔法を発動すると、レイラより太く、長い水の線ウォータービームを繰り出す。マレインの頭の中には氷の文字すら浮かぶ様子も無く目の前で座り込む子供を只々、助けたいの一心だった。


ライト 「マレインが水の魔法を出しているぞ!!」


ネイリー 「よくやった」


リリア 「やったーーー!!」


 マレインは水の線ウォータービームを繰り出すと器用に操り、子供が座り込む手前の火に当て消火する。


マレイン 「さぁ!!逃げて!」


 怖くて目を閉じていた子供はマレインの大きな叫び声で気付き目を開く。


 「あ、ありがとう!」

 「お兄ちゃん!ありがとう!」


 子供は立ち上がり消火した箇所から脱出すると大人たちが抱きしめ、リリアは駆け寄り治療に取り掛かる。しかし、完全に火は消えずマレインは水の線ウォータービームの消し、再び構え足元に青い魔法陣を出す。


マレイン 「水の弾ウォーターボール!」


 先程、レイラが詠唱した水の弾3ウォーターボール3が繋がる大きさの弾を繰り出し地面に当たると割れ激しい水しぶきをあげる。


マレイン 「ハァハァ…。火が消えた!!」


 木や草が焦げているが、しつこくメラメラと燃えあがる火は完全に消え去りウォーター村全員が歓喜の声をあげる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る