第70話 呪縛


―――【マレイン13歳】


 学校が長期休暇となったマレインはダイヤスファ国の王宮へと戻る。王宮内に入ると、ダイヤスファ国王であるシリスの従者に声を掛けられ共に歩く。従者と青い絨毯が敷かれている通路を共に歩くと、だんだん王の玉座のドアが見え始める。辿り着くと見張り番が、魔法を操りドアを開けている間にマレインはやはり、呼び出したのは父上か…と思いながら開いたドアを通る。


マレイン 「父上、何か?」


シリス 「マレイン。実は紹介したい人がいてね」


 王の玉座に座るシリスは横に立つ眼鏡を掛けた女性に手を伸ばす。


エアリ 「本日からマレイン王子の魔法教師をさせて頂きます、エアリです。よろしくお願いいたします」


 エアリは自己紹介をすると、マレインにお辞儀をする。


シリス 「マレインが一人前の魔導士になる事を願うよ」


 エアリとマレインは軽く挨拶をすると、魔法の稽古場へと一緒に向い歩く。


―――【1時間後】


エアリ 「マレイン王子!魔法たるもの、氷こそ美しく、頑丈で強いものはありません!氷が一番なのです!」


マレイン 「氷、氷、氷…こおり…」


 目の前にある美しく輝く氷をマレインはずっと見続ける。


エアリ 「氷は人も、動物も、物もすらも凍らす事出来るのです!」


マレイン 「氷が一番…氷は美しい…」


 氷の中には一輪の真っ赤なバラが咲き誇る。その日からずっと、マレインは氷の中にある一輪のバラを見続ける日々が続いた。


―――【現在】


 マレインはもう一度、水の線を再び詠唱しようと構えるが、見続けていた氷の中で咲く一輪のバラをの風景が蘇り水の創造イメージは跡形も無く消える。


マレイン (氷が一番…。ダメだ、今は水を創造イメージするんだ!)


 目を閉じると氷の記憶を振り払い、もう一度、水の創造イメージをする。


マレイン (あぁ!ダメだダメだ!…氷以外の物が思い出せない!)


―――い


マレイン (何で、他の物が思い出せない!何故だ!)


 氷以外の物がマレインの頭の中には浮かばず、無理やり、創造イメージを続ける。


―――イン


マレイン (父上の美しい火の魔法すら思い出せない!)


 無理やり創造イメージをし続けてしまったのか、マレインはとうとう何も浮かぶ事が出来なくなり視界は真っ暗になる。暗闇の中に閉じ込まれた感覚だ。


―――マレイン!


ネイリー 「おい!マレイン!」


 ネイリーの声で我に返り、マレインの目に光が差し込むと、額から汗を1滴、2滴…と流す。


マレイン 「あ…ネイリー…」


 額からツーと汗が流れ床に落ちる。そして、マレインはゆっくりとネイリーの方へ振り返る。


ネイリー 「マレイン、顔が真っ青だぞ。…昔の事を思い出したな?」


 マレインは顔を俯け頷く。


マレイン 「…うん」


 噴水の側で長い椅子に座っていたライト、リリアも心配になり急いで駆け寄る。


ライト 「マレイン!大丈夫か?」


リリア 「汗がびっしょり…」


 汗を流すマレインを見ると、リリアはマジッグバックから水とハンカチを取り出し、差し渡す。


マレイン 「リリア、ありがとう」


 ハンカチを受け取りマレインは額の汗を拭き、水分補給をする。


レイラ 「マレイン…様…?ダイヤスファ国の王子様ですか?」


 レイラの言葉に4人はフリーズする。互いにアイコンタクトをすると、ライトは手を回しマレインの肩を掴む。


ライト 「は、ははっ!名前は…そう!マシュマロ?違った!マカロニ?マカロン?」


 ネイリーはマレインの偽名すら、まともに覚えていないライトの顔を殴り、吹き飛ばす。ライトは演技の舞台から強制リタイアとなった。そして、ネイリーはマレインに指をさす。


ネイリー 「こんな服装なやつが王子な訳、な、な、ナイダロー」


マレイン 「私の名はマカロン!!じゃなくて!マレーインダヨー!よく、王子様にマチガワレルンダー」


リリア 「そうそう!マレーインったらオウジサマと名前がニテルカラー」


 4人は妙な芝居をするがレイラは目を細めマレインの顔を見つめ続ける。顔を見つめ服装の方へ目線を移すとレイラは胸に手をあてる。


レイラ 「そうですよね…。王子様がこの村にいる訳ありませんよね」


 レイラに身がバレず4人は安堵する。


レイラ 「とりあえず、マレイン様。氷の創造イメージが強いのなら、近くにある噴水を眺め続けて水の創造イメージを強くしていきましょう」


 マレインは手を叩き頷く。


マレイン 「なるほど!確かにあの噴水で流れる水を見つめ続けたら創造イメージが強くなるな」


 全員が大きな噴水の方角を見ると、側へ駆け寄る。大きな噴水は上の段から水がザーッと流れ下の段までたどり着くと水が飛び散っていた。


ライト 「この噴水の側にいると涼しいんだよな~!水があたるー!」


 噴水の間近で両腕を開き、飛び散る水を浴びる。


ネイリー 「あぁ、ダイヤスファ国はサファイアローメン国に比べて温度が高いからな。しかし…上から下に向かって流れる水は綺麗だな」


リリア 「この噴水の音も良いよね~♪」


 3人が感じた会話を聞き、マレインは何かに閃いたのか顎に手をあてる。


マレイン 「そうか…水の流れと音を感じる…」


 4人は大きな噴水の前で水の流れ、音を聞き涼しむ。


レイラ 「皆さんはサファイアローメン国から来たのですね」


 3人はすぐに頷くと、マレインも1テンポ遅れて頷き合わせる。その後、マレインは大きな噴水を眺め続け、3人は側に置かれている長い椅子に座る。太陽に照らされながら、噴水の水しぶきと流れる音に眠気を誘いこまれ、3人はうたた寝をする。


―――【2時間後】


マレイン 「よし、水の創造イメージが掴めてきたかな」


レイラ 「それでは早速―――」


 「レ、レイラ!大変だ!」


 マレインが詠唱の構えをし、レイラが話している最中にウォーター村に住む男性が息を切らしながら話しの間に入る。


レイラ 「そんなに急いで何か…?」


 「ウォーター村の外れにある森が山火事だ!!急いで消火に取り組んでくれ!」


 男性は大慌てで話すと、マレインとレイアは顔を合わせ急の出来事で無言になる。うたた寝していた3人も慌ただしく話す声が聞こえ、目を覚まし起き上がる。


マレイン 「レイラ!急ごう!」


レイラ 「は、はい!」

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