第37話 ブルー村の闇③
———そんなある日、ブルー村に上位貴族がやってきた。
ブルー村は海に面している為、貴族にとって海は珍しく旅行として来る人も多かった。住民は旅行者を思う存分のおもてなしをした。しかし、今回の家族3人の上位貴族である旅行者は庶民の集まりであるブルー村の住民を見下していた。
「宿泊する所がこんなボロ屋だなんてなぁ……。こんなの人が住める所ではないのではないのか?」
旅行者の家族である男性はブルー村の建物である宿屋を小馬鹿にしながら笑い、住民達に話す。
「ナニコレー!こんなの馬小屋じゃん!」
「こんな所で宿泊なんて無理ね」
男性に続き、同行している妻らしき者と男の子の子供も宿屋を見ながら同様に小馬鹿にしながら笑う。旅行者の発言に住民達が困り果てていると、サバルは立場を弁え、冷静で当たり障りの無い応対をする。
サバル 「すみませんが、こちらしか宿屋はありませんので…」
旅行者の貴族3人はブツブツと小言を言いながら宿屋の中へ入り、サバルは部屋まで案内をする。そして、扉を開けるとベッドやテーブルなど簡素だが綺麗に並べられていた。3人を部屋の中へと招くと男性は部屋の中を眺め、ため息を吐く。
「何だこの酷い部屋は!ましてや、こんな硬いベッドで寝られる物か!マジックベッドを持ってきて良かった、このゴミはすぐ他所に移してくれ」
「これがベッドォ!?こんなの犬が寝るような所じゃん!」
「せっかくの旅行なのにこんな宿屋だと台無しね」
ブルー村の住民たちは表情を曇らせながらも無言で宿屋に設置している重いベッドを寝室から全て動かした。貴族はお構いなしに魔法道具でソファやテーブルなどを出し始めるが、サバルは部屋から一生懸命に思い物を運ぶ住民達の表情を見つめ、自分の力ではどうする事も出来ない状況に胸が締め付けられるような思いと貴族に対しての憎悪が産まれた。
サバル (クソ貴族が!偉そうに!)
それでも住民たちはブルー村の海産物には自信があり、食事では『美味しい!』と言わせてやる!と皆思いながら一生懸命作る。シーフードグラタン、シーフードパスタ…など請った料理もあるが、サバルと住民達が作った品はエビの塩焼き、アサリの蒸し焼き、カニの塩湯で…どれも素朴な料理だが食材が新鮮だからこそ、うま味が活かせる料理を作った。そして調理後、自慢の海の幸を活かした料理を作り貴族達の部屋まで運ぶ。
サバル 「こちらがブルー村、自慢の海の幸を活かした料理です!」
サバルと住民達は貴族の前に料理を並べると、3人は初めは楽しみで待ちきれない様子だったが、次々へと料理を運ぶと表情は料理をゴミのような見る目で見つめる。
「なんだ?この華やかなさもない料理」
サバル 「それはエビの塩焼きです!頭からかぶりつくと美味しいですよ!」
ブルー村の海産物に誇りを持っているサバルは3人に対して自信満々に言う…が、貴族にそんな想いは一切伝わらず女性はワナワナと手が震え始めた。
「そんな野蛮な食べ方なんて出来る訳ないでしょう!?ナイフとフォークで食べられる物が『普通』なのよ!あなた達みたいな野蛮な生き物と一緒にしないでちょうだい!こんな食べ方、子供の教育にも良くないわ!」
「もういい。私達が連れてきた専属のシェフに作らせる。こんな料理食えた物じゃない」
ブルー村の住民達が一生懸命作った料理は一口も食べる事もなくそのまま下げた。サバルは表情が曇っている住民達に『今日の旅行者は運が悪かった!ブルー村は何もかもとても素晴らしいからそれだけは忘れないでくれ!』と前向きの言葉を掛けゆっくり休ませるように家に帰らせた。そして、折角作った料理を見つめ勿体ない…と口に運ぼうとするが先程の貴族とのやり取りを思い出し手が止まる。料理を見栄えだけで判断され味に対しての感想は一切無く誇りに思っている海産物を1度も食べて貰えなかった事に悔しく、まるで自分の今まで誇りに思った行動すら否定された感覚を味わう。
サバル (同じ人間なのに何が貴族だ!何もしないでのうのうと生きやがって!誰のお陰でこうして海産物が食べられると思ってるんだ!俺たちが獲ってきてる物を食べて生きてるのに!)
今日の出来事を思い出し考えれば考える程、いつも笑顔を絶やさないサバルは無表情となり憎悪が段々と膨れ上がる。
———【翌日】
太陽の光が眩しい中、風が少々強く吹いている日。サバルは早く帰って欲しい…と思いながら貴族の側から住民達が粗相が無いよう監視するかのように眺めていた。貴族は王族の周辺近くの街に住んでいる為、やはり海は珍しいのであろうか…子供は、はしゃぎながら海を泳いで遊んでいた。サバルと住民達は明日、帰る予定の貴族達に馬車などの手続きを話し合っていると叫び声が聞こえ始めた。
「子供が溺れているわ!!あなた!!」
「ああ!本当だ!誰か助けなさい!!」
空には雲が多く風が次第に強く吹き始め、波は大きくなり子供は陸地から遠い所まで移動していた。貴族の家族である夫と妻はブルー村の住民に手助けを求めると、一人がすぐにボートを海に出し助けに行く為、子供が溺れている位置まで向かった。子供をボートの上にあげるが、風が強いせいか…波が次第に強くなり陸地から段々と離れていき始めていた。ボートの上に乗っていた住民がこのままではボートごと波に飲み込まれてしまう事を予想し、貴族の子供をサバルに向けて投げ、見事に子供をキャッチする。しかし、ボートの上に乗っていた住民は貴族の子供を投げた時にバランスを崩してしまい海の方へと体が倒れて溺れてしまった。
見かねた住民達は船を出す準備をし溺れている住民の所まで行くが、天気は雨が降り荒れ始めたせいか、大きな波に飲み込まれ姿はあたかたも無く消えてしまった。貴族の子供を助けた住民は、そのまま帰らぬ人となってしまった。
「助かって良かったわ~!しかしあなた達、私達の子供を投げるのは理解出来ないわ!まぁ、助かったから今回だけは許してあげるわ!」
「全くだ!子供を投げるとはどういう神経をしている!怖かっただろうに……」
サバル 「いい加減にしてください!こっちはあなた達の子供を助けるのに住民の一人は死んでしまったのですよ!?」
「庶民の命が何だ?別に生きていても、死んでいても変わらないだろう?」
夫と妻は子供をあやしていたがその光景を見続けていたサバルは殴りたい気持ちでいっぱいだった。それから旅行者の貴族は街へと帰っていったが、サバルはそれ以降、貴族に対して憎悪が抑えきれない程になっていた。
それから一か月後、魔王軍と人間の戦争になりサバルは命を落としてしまった。サモンは死体のサバルを見て「辛い思いをさせたままあの世に行かせてしまい、申し訳ない」と思い、ブルー村の住民で命を落としてしまった者全員の火葬の準備をし、サバルの遺体を探したがどこにも見当たらなかった。
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