第38話 『おもてなし』


———【現在】


 サモンから息子であるサバルの話を聞き終えた後、その場にいる全員が静かになる。


サモン 「サバルには辛い思いをさせたまま亡くなってしまいました…。あの時、私ももっと支えていれば、側にいればと何度も思いました…」


 過去の事件を思い出すと、サモンは息子に対して後悔の余りに涙をポロポロと流す。涙を流すサモンを無言で見つめながら全員は余りにも酷い話だ…と共感していた。


ライト 「そうだったのか…」


ネイリー 「しかし…既に亡くなったサバルが何故、魔人の姿となり再び現れたのかが不思議だな」


リリア 「うん…そもそも魔人って魔王軍の配下だよね…?」


 3人はサバルと魔人の関係性について考え込んでいるとライディールが声を出す。


ライディール 「サモン村長、すまないが…魔人だったサバルという者は私が斬ってしまった」


サモン 「ラ、ライディール様!!頭をあげて下さい!魔王軍を倒すのは12聖将せいしょうの務めなのですから…」


 ライディールはサモンに対して頭を下げ謝罪すると、サモンは焦り頭を上げるように困惑していた。庶民であるライトとリリアはその光景を目の当たりにし、ネイリー同様に身分が上でも決して傲慢な態度を取らないライディールに感心していた。


スレン 「サモン村長、魔人化したサバルさんの件は次回の『議会』で話し合いをさせて下さい」


サモン 「承知致しました。もしかするとサバルのように昔に亡くなった者が魔人になっていたという事もあるかもしれませんから」


 スレンはメモとペンを取り出し、次回の『議会』で話し合うために魔人化したサバルの件を書きまとめていた。そして、ライディールは目の前に立つライト、ネイリー、リリアを見つめながら声を出す。


ライディール 「サモン村長、お願いがあるのだが…。御覧の通り今回の件で3人は負傷している。傷が治るまで置いて頂けないか?」


 リリアは手に火属性魔法を手に掠ってしまったのか火傷の後が残り、ネイリーには右腕や左足に矢の攻撃でかすり傷が残っていた。何より、ライトは服で隠れ見えないがサバルの黒い衝撃波に身体ごと吹き飛ばされ大きな岩に当たった衝撃で骨には異常が無いが大きな傷痕が残っていた。ライディールとスレンによる応急処置で傷薬を塗ったお陰で大事に至らず普通に足で地の上を立ち、歩く事が出来た。背中を時折、痛いのか手で押さえるがそれでも普通に振舞っているライトは不自然だった。


サモン 「ええ。勿論いつまでも滞在しても構いません。こちら側としても依頼を達成した際にはご馳走をと考えていましたので。今回の依頼の報酬は勿論の事、それ以外にもブルー村の『おもてなし』を存分にさせて下さい」


 ライト、ネイリー、リリアはサモンの話を聞き、目を輝かせながら落ち着かない素振りを見せる。喜んでいるライトは楽しみ過ぎて大はしゃぎをするが、背中の傷がピキンッ!と響き、激痛が走りそのまま静止しながら固まる。


ライディール 「サモン村長。恩に着るぞ。では、君らはとりあえず安静にする為、宿屋に戻るぞ」


 サモン村長から『おもてなし』は1週間後に開催すると告げられた後、ライトは背中を押さえ何とか動ける状態となり全員が再び宿屋に向う。空は夕日が沈みかけライディールは前に立つネイリーを見つめながら何かを思いふける仕草で道中を歩く。


ライディール (そういや昔、眠る時にネイリーに膝枕をしていた時があったな…!)


―――【ネイリー(5歳)】


 稽古後、休憩をしていた2人だが疲労のせいか幼いネイリーはウトウトし始めていた。


ライディール 「ネイリー、眠いのか?」


ネイリー 「うぅーん…、ねむ…くないです!」


 まだ稽古を続けたいネイリーは目を擦りながらも強気で返答をする…が、目がトロンとし如何にも眠気に耐え切れない顔をする。


ライディール 「少し私の膝上で横になりなさい。ゆっくりしたらまた稽古をしよう!」


ネイリー 「ほんとう!?じゃあ、ライディールおじうえのひざのうえですこし、よこになります」


 ネイリーはライディールの膝上を枕のように横になるとスーッと眠りに入った。スヤスヤ眠るネイリーの顔を上からマジマジと見つめアイリーのようにまつ毛は長く、ピンク色のサラサラな髪を触りながら心の中で呟く。


ライディール (疲れていたのであろうな…。しかし、ネイリーはアイリーによく似ている…私の癒しだ!かわいい!!)


 ライディールは鼻を伸ばしニヤニヤした表情でこのまま時が止まれば良いのに…と幸せな一時を噛みしめていた。


――――――――――――――――


ライディール 「ネイリー!眠る時は膝枕をしてあげるからね!」


 デレデレな表情をしながら言うものの、ネイリーの足が止まり後ろに立つライディールの方に振り向くと無表情で口を開く。


ネイリー 「私はもう子供ではありません。ライト達同様に宿屋で安静にします」


 ネイリーは即答すると再び前を振り向き、止まっていた足を動かす。ライディールも再び足を動かすと顔を俯け「あんなに可愛いネイリーが冷たくなった…」と呪いの呪文のようにブツブツと連呼しながら宿屋に向った。ライディールの隣にいたスレンは恐怖心を抱き、咄嗟に距離を離れると異質のような冷めた目で見続けていた。


———【ブルー村宿屋】


 宿屋に戻るとブルー村の住民が作った食事が用意され空腹だった5人は次へ次へと口に運び、中でもライトとライディールは奪い合うように食事をする。そして、食事を終えライト、ネイリー、リリアは泊っていた部屋に入りそれぞれマジッグベッドの上に座り会話を始める。


ライト 「ネイリーのおっさん、12聖将せいしょうだったのか…。そりゃ強い訳だよなぁ…」


リリア 「私もまだまだ修行が足りないなぁ~…」


 ライトは腕を組み険しい顔をする一方、リリアは手をお腹の前に置き両足を曲げながら顔を俯け悔しい表情をする。2人の落ち込んだ姿を見かねたネイリーは声を出す。


ネイリー 「傷が治ったら、ライディール叔父上とスレン様に稽古を頼まないか?」


ライト 「おおおー---!!12聖将せいしょう直々に修行してくれる機会なんて無いからな!!」


リリア 「私も稽古お願いしたい~!12聖将せいしょうが修行に付き合ってくれるだなんて、こんなチャンス滅多にないよ!」


 2人はネイリーの提案で普段の明るい表情に戻り、テンションが上がり興奮状態になる。興奮状態となった2人の体をネイリーは見つめ今後に備えて高ぶった気持ちを鎮めるように声を掛ける。


ネイリー 「まずは身体を回復せねばな。傷が治ったら頼もう」


 ライトとリリアの興奮状態は続いていたが次第に鎮まり身体の回復を専念するようマジッグベッドの横になる。そして、置いていたロウをライトは消し部屋は真っ暗となると3人はすぐに寝息の音を立て就寝した。一方、ドアの隙間から3人のやり取りをずーっと監視していたライディールは不服な表情でスレンに対して声を荒げる。


ライディール 「おい!スレン!!何故、あの少年とネイリーが同じ部屋なのだ!!」


スレン 「…この宿屋にそこまでの部屋数は無いのですよ」


 3人が就寝している斜め対角の部屋でドアを開けたままスレンは自分達のマジッグベッドを設置しシーツの埃をパンパンと払いながら返答する。


ライディール 「男女別々の部屋で良いじゃないか!!!」


スレン 「別々にしてもライディール先輩とライト君が一緒の部屋になった場合、ライト君が死体になっている可能性が大だからです。それに3人共、部屋内で十分に距離ありますし…ライト君なら大丈夫です」


スレン (ライト君ってあんなに可愛い女の子2人が一緒でも如何にも恋愛興味なさそうだし…)


 ライディールはライトが何かしでかさないかジーっとドアの隙間から覗いていたが、スレンはヤレヤレ…とうんざりとした表情でそのまま放っておきマジックベッドの上で横になり就寝した。そして…数時間後スレンはトイレで目が覚め起きると、ライディールはドアの前で力尽きたのか通路でぐうぐうと豪快にイビキをかき、大の字で寝ている姿を見掛け思わずため息を吐く。風魔法を詠唱しライディールの身体をフワフワと浮かせながら自分達が乗っていた動物小屋まで移動させ布団を掛けると再び部屋へと戻り、先程まで開けたままのドアを閉める。


スレン 「はぁー…。先輩に同行してから全然ゆっくり寝れていなかったし…ようやく気にせず寝れる」


 部屋に一人となったスレンは余りの嬉しさにマジックベッドの上に飛びつき至福な表情で横になり就寝した。スレンがライディールに同行してから唯一、ぐっすりと就寝出来た日であった。

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