第31話 それぞれの戦い②


———【ネイリーvs弓使いの魔人アワード】


 遠くまで吹き飛ばされたが身体の痛みなど特に気にせずネイリーは直ぐに立ち上がる。足元を見ると砂浜だが緑色の草が生え、辺りには木が何本か立っている。潮の匂いが感じ取れる程、近くに海があるのにも関わらずネイリーが立っている位置はまるで森の風景と同等だ。足元を見るとふと薄い白いモヤが纏っている事に気付き、次に自分の腕や手を不思議な表情で確認する。そして、考え込んでいると以前、魔獣ゴブリンをライトと共に倒した時をネイリーは思い出す。


ネイリー 「これは…魔獣ゴブリンと戦った時の感覚と一緒だ。ライトの特殊能力だな」


 身体に薄い白いモヤが纏っている感覚を思い出すと、ハッと我に返り状況を把握する為、冷静に考え込む。


ネイリー 「リリアは回復能力者で本来、戦闘には向いてない能力だ。リリアとまず合流せねば!!ライトは剣技も優れているし、特殊能力を持っているから大丈夫だろう!」


 ネイリーは自分が吹き飛ばされた後に、遠く離れた位置から物音が聞こえた事を思い出し振り向く。物音が聞こえた位置の方角を見続け、行動するべき考えが纏まると、ネイリーは居ても立ってもいられず足を急いで動かしリリアが吹き飛ばされた場所へと移動する。まだ50メートル程しか走っていない位置に何かが飛んでくる音が聞こえ一瞬で1本の矢が顔を横切ると地面に突き刺さる。


ネイリー 「なんだ!?」


 まだ足を動かしてそう遠く離れていない位置で誰かに遮られるかのように、ネイリーの足が止まる。


アワード 「あの『暴力姫』でも、流石に遠隔攻撃は不利だよなぁ」


 キョロキョロと焦った表情で辺りを見渡すネイリーを嘲笑うようにアワードは木の上から身を潜め眺めていた。狙われている者を必死で探すネイリーに目掛けてアワードは弓を構え矢を引く。しかし、ネイリーは咄嗟に反応し回避する。


ネイリー 「ッチ。遠隔攻撃能力か。どこか物陰に隠れながら遠くで私の事を狙っているな」


 物音に敏感なネイリーは矢が放たれている音を微かに聞き取り、1秒でもその場から動いていなければそのまま右腕に突き刺さるのではないであろうか…と思う程のギリギリで何とか回避し1本の矢は地面に突き刺さる。


アワード 「さすが『暴力姫』身体能力だけは良いな。んじゃ、矢を沢山放つまでだな」


 弓を再び構え、今度は3本の矢を一気にネイリーに目掛けて引く。ネイリーは矢が放れた音を再び感知し回避しようと動くが矢の動きが誰かに操作されているのように、妙な動きをし矢がネイリーの右腕や左足に掠り少量の血がツーっと流れる。


ネイリー 「っっっく!!遠隔攻撃能力者が矢の動きをコントロールしたか…。私には不利な相手だな…」


 ネイリーは右腕から流れる少量の血に痛みを感じながらも左手で押さえる。矢の動きを操作していたアワードは痛覚を感じているネイリーを愉快に笑いながら木の上で眺めていた。


ネイリー (相手は物陰に隠れているんだ、隠れていそうな物を壊せば良いのではないか…?)


 地面に突き刺さっている複数の矢を見つめ、ネイリーは何か閃いたようで矢を握りしめ動きだす。周辺に立っている木に目掛けて矢を思いっ切り投げると、木はどんどん折れるように倒れる。


アワード 「ヤバイ!このままだと隠れる場所がどんどん少なくなるな!!さっさと終わらせるか!!」


 順々にネイリーは地面の矢を拾い木に対し思いっきり投げると倒れるように折れていき、アワードは焦り始め再び弓を構え3本の矢を引き操作する。しかし、ネイリーは矢を回避するのを止め顔の左右に放たれた矢2本に対し両腕を上げ左右の手の中に握り、もう1本の矢は目の前にライトから付与された特殊能力でシールドを張りガードした。両手に1本ずつ握り絞めている矢をネイリーは気にせず思いっきり投げ既に1本しか立っていない木に当たるとアワードは足場のバランスを崩し木と共に倒れるように落ちる。


アワード 「マ…マジカヨ…。これが『天性てんせい能力者』か…」


 弓を構える程、余裕の無いアワードは呆然としながら驚き、ネイリーはその隙を見抜いて拳の周りにオレンジ色に光る円を纏い走りながら近づく。ネイリーは接触する位置で思いっきり殴る…がアワードは咄嗟に黒色のシールドを張る。しかし、ネイリーは構わずシールドをぶち破るぐらいの勢いで思いっきり拳に力を入れ続けると、シールドはボロボロと破れアワードの身体に当たり、そのまま遠くまで吹き飛ばされ意識を失う。


ネイリー 「ハァハァ…。少し体力を使いすぎたな…。ライト…すまない。そっちにはすぐにいけなさそうだ…」


 ネイリーもリリア同様に体力を使い果たしその場で太陽に照らされながら倒れ意識を失う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る