第30話 それぞれの戦い


ライト 「っっ…!!この前の…魔獣ゴブリンとは…全然格が違いすぎる…」


 大きな岩まで吹き飛ばされたライトはぐったり座り込むように目の前に立っているサバル達の方へと見つめ続ける。ネイリーとリリアの姿は視界内には映っておらず、ライトは自分のようにどこかへ吹き飛ばされた…と思い段々と弱い自分が惨めで悔しくなる。身体は大きな岩に思いっきり当たり、衝撃で痛覚があるが2人の事を考えると居ても立っても居られず、ゆっくりと立ち上がり始め思わず大きな声で叫ぶ。


ライト 「こんな所で負けてられるかよー---!!」


 地面やすぐ側の海が揺れてしまうのではないかと思う程、ライトは大きな声で叫ぶと身体の周りに薄いが白いモヤを纏う。それぞれ違う場所に吹き飛ばされた2人は横になり倒れ込んでいたがライトの声がひそかに聞こえた瞬間に身体に薄い白いモヤを纏い起こされるように立ち上がる。


ネイリー 「サファイアローメン国で悪さはさせない…!私はこの国を何が何でも絶対に守る!!」


リリア 「もう誰も犠牲者を出しちゃいけない…!皆、助ける!」


 サバルは圧倒的な戦力を見せつけても尚、3人はヨロヨロと立ち上がる姿を見て呆れた表情でため息を吐く。


サバル 「まだ足掻くか。バカな生き物だ。どう足掻いても12聖将せいしょう以外、俺らに勝ち目は無い」


 勝算が無い戦いに挑む3人にサバルは哀れな目で口を開くと、側にいる魔人達から声を掛けられる。


 「サバル、あなたが手を出さなくても私達で勝てる」


サバル 「寝て待っているか…どうせすぐ死ぬだろうし。後は頼むぞ、アサメラ、ホタイル、アワード」


 サバルは3人の魔人に言い伝えると、空に浮きながら闇のシールドを身体に纏い寝始める。槍を持つホタイルは作戦を練る為、遠く離れたライト、ネイリー、リリアを見つめながら2人に提案をする。


ホタイル 「あのオッドアイの目の女。回復能力者だな」


 3人はライト、ネイリー、リリアが扱う武器や詠唱する魔法で、所持している能力を既に分かり切っている口調で会話をする。


アワード 「人間は脆いくせに回復能力者がいると長期戦になる。アイツからだな」


アサメラ 「あの回復能力者は私がやる」


アワード 「じゃあ、俺は『サファイアローメン国の王族』を殺す」


ホタイル 「俺はあの、剣を持っている少年を相手にする」


 3人は話し合った結果、それぞれ相手をする者達の方向に振り向き位置を再度確認する。そして、3人は位置を確認すると顔を再び見合わせ頷くと相手をする人物の側に近づくため、飛ぶように素早く移動する。


———【リリアvs魔術師の魔人アサメラ】


 ヨロヨロと立ち上がるリリアは次第に意識がハッキリし、状況を直ぐに把握するため辺りをキョロキョロと見渡す。そして、吹き飛ばされた衝撃でヒリヒリする頬の傷を手で確認しようと動かすと、視界に薄い白いモヤが纏っている手が映る。


リリア 「これって…ライトの特殊能力!?皆と合流しなきゃ!ライトは…何とかなるでしょ!ネイリーの所にまず向かおう!!」


 ホタイルに吹き飛ばされたネイリーの位置を再確認し、足を動かそうとした瞬間、目の前の地面が爆発するかのように火の弾が当たる。


リリア 「!!」


 何者かに狙われている事に気付いたリリアは足を止める。辺りを見渡し敵を直ぐにでも探そうと動作をする途端、背後から女性に大きな声で引き留められるかのように話し掛けられる。


アサメラ 「そこにいるオッドアイの目の女!」


リリア 「あなた…。さっきサバルと一緒に居た魔人!?」


 声が聞こえた方向にリリアは顔を振り向くと、サバルと一緒にいた女性の魔人がそう遠くは離れていない位置に立っていた。魔人の姿に変身する前は茶色のロングヘアーで先だけはくるくると巻いていた色っぽい女性だった。しかし、リリアの目に映る女性は髪型は変わらないが頭に角のような物が生え、肌は黒く、目は赤く、爪は鋭く…魔人以外の何者でも無かった。アサメラはリリアの顔を見つめながら、どうせ自分に勝てるハズも無い…と小馬鹿にしたかのような笑みで口を開く。


アサメラ 「あなた、回復能力者でしょう?」


リリア 「そうだけど、それが何!?」


アサメラ 「回復能力者は人間の傷を癒し何度も何度もしぶとくさせる。ただ一人だと回復能力者は何もできずに脆い!」


リリア 「…あんまり私の事、舐めないでくれるかな~?」


 初めて目にする魔人達を相手にリリアの心は常に恐怖心を襲っていたが、アサメラの発言に勘に障ったのかイラっとした表情を見せる。互いに一定の距離を保ったまま見つめ合うと、先にアサメラは早々に火属性の魔法を詠唱し大きい火の弾をリリアに避ける隙間もない程の早さで放つ。


アサメラ 「あはは!お前達のような子供に誰が負けるか!『火の弾10連!バーニング10』」


 回復能力者は身体能力が鈍いのが『弱点』とリリアは思い庶民校でライトや他の人にも稽古相手になってもらい体力を鍛えていた。鍛えた強みの体力を存分に生かし、リリアはアサメラが『火の弾10連バーニング10』を放った瞬間に素早く移動しアサメラが立っている真横の位置まで回避した。


リリア 「ハァハァ…火属性の上位魔法を何発も使うのね。ちょっと厄介だなぁ…」


 素早く大きく移動したのでリリアは少々息が上がり、額から汗が2滴ツーっと流れた。少し離れた位置でも未だに熱さを感じる中、アサメラが『火の弾10連バーニング10』を放った方向に振り向くと、砂浜の地面にいくつも当たり、大きな黒い煙がモクモクと巻くっていた。先程まで余裕に笑っていたアサメラから笑みが次第に消え始め、苛立つ表情で再度、魔法を詠唱する。


アサメラ 「ッチ。回避したか。なら更に火の弾を増やすまで!『火の弾20連バーニング20』」


 アサメラは倍に火の弾を増やして『火の弾20連バーニング20』をリリアに目掛けて放つ。しかし、リリアは聖魔法の造形で作りたいイメージを想像し、光輝く短剣を作り始めた。光輝く短剣が完成すると丁度、目の前に幾つもの火の弾が到達する寸前に特殊能力のシールドを張り、真正面から飛び込むように見事な身体能力で華麗に全て回避する。全て回避し終えるとアサメラのすぐ側まで接近していたので、リリアはそのまま光り輝く短剣で腕を斬りつける。


アサメラ 「イッタイ!!あんた回復能力者のくせに近距離攻撃能力も持っているの!?」


リリア 「持ってないよ。それは聖魔法で造形した物よ?力が入らなくても触れるだけで聖魔法のダメージを触れた相手に食らうようになっているだけ」


 アサメラはリリアから光輝く短剣で斬られた腕を手で覆うように押さえつけ互いに一定の距離まで離れる。そして見くびっていたいたリリアに苦戦するアサメラは、相手の強さを認めるのを拒み顔の表情は憎悪そのものを感じ取れる程の酷い顔だった。


アサメラ 「回復能力者のくせに生意気にな…!お前、『天性てんせい能力者』か!次で終わらせる!!」


 アサメラは空に浮き、先ほどの火属性の上位魔法の無数の弾をいくつも集合させ大きい弾を作り出す。


アサメラ 「くたばれ!!愚かな人間ー----!!『爆発エクスプロージョン!』」


 アサメラはヒステリックのように大きな声で叫び、『爆発エクスプロージョン』をリリアが立っている地上に目掛けて放つ。放ったと同時にリリアは素早く特殊シールドを張りながらアサメラの浮いている位置まで走りそして宙に舞うように飛び跳ねる。空を浮かんでいるアサメラの背後に移動し聖魔法を詠唱していた。


リリア 「『光の交線ホーリークロス』!!!」


 リリアは『光の線ホーリーライン』の上位魔法を唱え、相手は黒色のシールドで防御するにも無数の閃光が空に浮かんでいたアサメラにヒットし地上に振り落とす。地上に振り落としたアサメラは跪きそのまま立つことが出来ない様子でリリアはその隙を見逃さず光輝く短剣で身体を刺す。


アサメラ 「そんなバカなっっ!!!闇のシールドが破れるだと!?12聖将せいしょう以外に…特殊能力者がいた…のか…?」


 アサメラはリリアに最後の一撃を食らい、何か爆発した大きな音が聞こえた後に意識を失いその場で倒れ込む。爆発した音はアサメラが詠唱した『爆発エクスプロージョン』が地上に到達した知らせで砂の上だが炎は未だに消えない程の威力だ。


リリア 「ハァハァ…。魔王の配下を倒せた…ライトの特殊能力って本当だったんだなぁ…」


 すぐ側でメラメラと燃えている中、魔力も肉体の体力的にも莫大に消費したリリアは太陽に照らされたまま砂浜の上で横たわりそのまま意識を失う。

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