第22話 リリアの過去③


 リリアは教会から元の両親に無事に引き取られ外に出ると空は雲一つ見当たらず、太陽が温かく祝福するように光を照らしていた。晴天の中、母であるミアと父であるジルクの間に挟まれ手をつなぎながら歩いていた。リリアは両親と手を繋いでる間、恥ずかしさがあり2人には顔を合わせないよう目線は辺りの風景や建物を見ながら初めて外での自由行動に刺激を受けていたていた。


ミア 「リリア、これからはあそこの家で3人一緒に暮らすのよ」


 歩く足は止まらぬまま、ミアが微笑ながら指を差した家は小さな家で周りには沢山の白い花が咲いて風が吹く度に踊るよう動いていた。そして沢山の白い花の中、1つだけ赤い花が強調するように堂々と咲いていた。


 そして家の玄関前まで辿りつきジルクは鍵をポケットから出し始め開錠するとドアを開けリリアに「どうぞ」と声を掛け中に入るように招く。


 リリアは産まれた時から教会で集団生活をしていたので生活する建物の中は全て広い所と思っていた。しかし、招かれた家に入った瞬間は今まで生活していた建物とは大きく異なりリリアは内心驚き、新鮮さを感じながら足を動かす。


 辺りを見渡すと家の中には小さなテーブルとイス、キッチンがあり他にも部屋が2つ繋がっていた。そしてリリアがどうして良いかわからずその場で固まり戸惑っていると母ミアが「リリア、自由に座ってね」と声を掛ける。


 リリアは椅子に腰を掛けるとミアが3人分の紅茶を用意し、テーブルの上に運ばれ同時に2人も椅子に座る。


ジルク 「リリア、私たちのせいで強制的に教会に入ってしまい申し訳ない」


ミア 「今まで寂しかったでしょう?」


リリア 「う、ううん…」


 リリアは本当は寂しくて仕方が無かったのだが首を横に振り返答する。以前から知っている変わら者の客としてならば本音を話せただろうが今日、改めて両親と知った相手に対してリリアもまた本音を言う事が出来ずにいた。まるで石のようにガチガチに緊張しているリリアに対しジルクは柔らかい口調のトーンで声を掛ける。


ジルク 「リリア、自分の本心を押さえちゃダメだよ。もうここは教会ではないのだから、言いたい事は自由で構わないのだぞ?」


ミア 「そうよ。私たちは客として教会に通っていたのだから…あなたの本心も分かっているわ」


 緊張していたリリアは両親の発言に完全では無いが解れ始め、勇気を出し2人に対して質問をする。


リリア 「あ、あの…お母さんとお父さんは…私の容姿は嫌いじゃない…?」


ジルク 「リリアは私たちの子供なのだからどんな容姿でも嫌いならないよ?オッドアイの目を気にしているようだが…私達にとっては綺麗な色の目にしか見えない」


ミア 「私達の目の色を片方ずつ受け継いでとても綺麗だわ…」


リリア 「でも…。教会に居る時は皆、不気味だって…」


 『不気味』として距離を置かれ誰も親しくされない孤立という名の恐怖心を経験したリリアは教会で暮らしていた事を思い出し体を震わせ、今にも泣いてしまうのでは無いかと思う程の表情で話す。ミアとジルクはリリアの手をそっと優しく握りながら口を開く。


ジルク 「リリア、皆はオッドアイの目の人が『珍しい』から不気味って言ってたようだが……」


ミア 「リリア、お花で例えばの話をしましょうか。今、家の周りに白いお花が沢山咲いているわね?」


 ミアが家の窓から庭の花を見つめ指を差すとリリアもまた同時に眺める。


リリア 「うん、とても綺麗」


ミア 「リリア、あの白いお花の中に1つだけ赤いお花があるのは分かる?」


 リリアは庭の花を眺め続け、先程家の中に入る前に見つけた赤い花の場所は覚えていたので直ぐ返答する。


リリア 「うん、さっきこの家に入る時に見つけた。とても目立っていたからついつい目に入っちゃった」


ミア 「白いお花が沢山咲いている中、1つだけ咲いている赤いお花は不気味に見える??」


 リリアは赤い花を見つめながらミアの質問を自問自答のように考える。確かに庭はほぼ白い花なので数多く咲いている中の1つしか咲いていない赤い花は珍しく見える。しかし、『不気味』か…と質問された場合、ただ強調されているので強制的に視野に入るが、1つだけ堂々と綺麗に咲き誇っている赤い花もまた魅力であろうと感じた。


リリア 「ううん、1番目立っているからずっと見てしまうぐらい綺麗」


 数分間経ったリリアの解答にミアとジルクはニッコリと優しく笑いながら口を開く。


ジルク 「あの赤い花はリリアのオッドアイの目と一緒で珍しいから目立ってしまうんだよ。でもね、私達は周りと一緒の物より、珍しい物程『美しい』ものは無いと思っている」


ミア 「そう。だからリリアのオッドアイの目は珍しくてとても綺麗なものなのよ?私達は珍しく『美しい』宝石みたいな容姿に産まれてきてくれてとても嬉しいわ。周りに自慢したくなるぐらいにね」


 リリアは『不気味』ではなく『美しい』と初めて言われた瞬間、心が舞い踊る程に嬉しく自分自身の容姿に自信が溢れてきた。


 そして、今まで両親に対して我慢していた寂しさの感情が爆発するように込み上げリリアは大泣きするとミアとジルクは大切に包み込むように抱きしめ優しく頭を撫でた。


 両親と暮らし始めたばかりの頃は慣れない環境でお互いに気を使っていたが、一緒に母親のミアと料理をしたり、父親のジルクと一緒にお庭にお水をあげたりと少しずつ触れ合っていた。


 リリアがミアと一緒に初めて料理を作った日に、ジルクはテーブルの上に置かれた食事を「いつかはお嫁にいってしまうんだな…」と行き過ぎた妄想をしながら涙をポロポロと流し酷い顔になりながら食べていた。ミアはジルクに「まだ早すぎるわよ」とリリアの溺愛に呆れていた。


 一か月も経つとここは『自分が居ても良い場所』と認識され、自由に喜怒哀楽の感情を出し、両親と一緒に暮らすのは遅いスタートだったがリリアにとってはとても幸せなひと時だった。

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