第21話 リリアの過去②

———6歳になってから私は回復能力を使う実習した。


 教会は庶民にとって神にお祈りする場所が主だが、回復能力の治療は値が張るのでそれとは別に庶民向けの治療する場でもあった。


 治療をする者は鑑定後に教会に強制入りとなった子供や、回復能力を学校卒業まで十分に伸ばせなかった大人だった。しかし、回復能力が高くなくとも貴重な能力なのでそれなりのお金は貰える程だ。


 しかし、私は治療をしようとしても違う人にして欲しい…と容姿だけで受け入れられず拒否をされ続けられていた。私が治療する人は何かと言いがかりをつけたり、異常が見られない様子なのに具合が悪いなどと変わり者の客を相手する日々が続いた。


 そして周に1度は見かけるフード付きの上着を被る変わり者の客、男女2人が再び私の目の前に現れる。今日も腰を曲げながら弱々しく私の方に近づくように歩いている。外見から見る限りやはり年配者なのだろうか…と思う程の振舞だ。


 「イタタタタ!!今日は足を捻ってしまってね!」


 「全然傷は治ってないじゃないか!!金をとっておきながら!!別の癒し子にしてくれ!!」


リリア (どこをどうみても少しぶつけてしまった程度でしょ?そんなに痛くないと思うけど…)


 女性の神官はリリアと変わり者の客がやり取りをする光景を見ながら困惑した表情で返答をする。


 「この癒し子しか今は空いていませんが……」


 変わり者の2人は女性の神官に言われ口を尖らせ大きな声を出す。


 「もうこの子でいいよ!」


 「またこの子しかいないのか!全く!」


リリア 「今、手当をしますね」


 変わり者の2人は治療している間も小言のように文句を言い続けていたが治療をし終えた後はすんなりと素直に教会を後にし立ち去っていた。



———【1年後】


 リリアは普段通り変わり者の客、2人の治療をしている様子だった。2人の専属治療者となり最初の頃に比べると他愛のない会話をしたり、外の出来事を話してくれたりまるで本当の家族のように仲が良くなっていた。


 「リリアちゃん、今日もありがとう。リリアちゃんは明日から親元に帰っても良い日になるのかい?」


リリア 「はい。そうです」


 「癒し子は7歳になる年になったら親元に迎えられても良い年になるのだったな」


 2人の会話でリリアは目線を逸らし浮かない表情で治療を終える。


リリア 「私を産んだ両親は迎えにきませんよ…。こんな容姿だし。オッドアイなんて不気味で迎えにきたとしてもすぐに置いて帰りますよ、きっと…」


 「お腹を痛めて産んだんだから、どんな子でも可愛いもんだけどねぇ」


 「そうだ。我が子ならどんな子でも可愛いもんだよ」


リリア 「それだと……嬉しいな…」


 「迎えにこなくても私が変わりに見に来るから大丈夫だよ」


 「俺もリリアちゃんを見に来るよ」


リリア 「ふふ。ありがとう」


 リリアは2人から言われた言葉に対して自然と笑顔になった。もし、家族が迎えにこなくともこの2人が通ってくれるのであれば十分かな…と思うようになっていた。


 回復能力者は鑑定後、強制的に教会入りとなるが学校に通う年である7歳には親元に戻っても良かった。しかし、経済面に余裕がない家庭や仕方なく産んだ子供などは迎えにくる事もなく教会で暮らしながら学校に通う子も僅かにいた。



———【次の日】


リリア (どうせ、私の親なんて来ないよ…)


 リリアはそんな事を思いながら朝を迎え、いつも通り支度を済ませた後はお祈りをし普段と変わらない日常で治療をしている間に夜になっていた。その間にリリア以外の子供達は続々と親が迎えにきていた。


リリア (ほらね、私の親はやっぱり来なかった…)


 共に教会で過ごした子供達はリリアの目の前で親に抱き着き何とも嬉しそうな笑みを浮かべていた。リリアは迎えにきてくれないと思っているがもしかすると迎えにきてくれるのかも…と半々の気持ちと戦い合っていた。しかし、いつになっても自分の親が迎えに来る様子は無かった。


リリア (やっぱり、私なんて不気味なんだ。私も普通の容姿に産まれてきたら、きっと迎えにきてくれたのに)


 目の前の光景を見続けていると虚しくなり、リリアは就寝する部屋に戻った。そして昨日までは共に過ごした子供達は一人もいない中、リリアは大きな声で泣き続けていた。


———次の日の朝


 リリアは泣き疲れてそのまま眠ってしまい、女性の神官は急いで起こすように身体を揺らす。


 「リリア!起きて!」


リリア 「う…うん?」


 「リリアに迎えが来てるわよ!」


リリア 「えっ……!!!」


 女性の神官の一言でリリアは一気に眠気が覚め、勢いよくベッドから起き上がる。急いで支度を済ませようとし、嬉しさの余りに活発に動くが髪をほぐそうと考え鏡の目の前に移動すると当然だが自分の容姿が鏡に映り咄嗟に目を逸らす。


リリア 「私の容姿を見たら嫌で帰っちゃうのかな…?」


 鏡の目の前で髪をほぐすブラシを持ちながら硬直し、悪い方向の事ばかり考え込む。


 「リリア?いつまで支度をしているの?急いで!」


リリア 「は、はーい!」


 女性の神官にせかされリリアは急いで髪をブラシでほぐすと、そのまま勢いに任せ教会の玄関口へと走りながら向かう。そして息を荒げながら玄関口に辿りつくと、メインティス家のリリアの母ミアと父のジルクが迎えにきていた。リリアはとても綺麗な女性と美形の男性だったので見惚れてしまうように見つめていた。


ミア 「ようやく逢えたわ、リリア!ごめんなさいね、昨日はこれなくて。不安だったでしょう?」


ジルク 「本当にこの日をどれだけ待ち望んでいたか!私たちの可愛いリリア!」


 リリアは首を傾げながら2人に質問を投げる。


リリア 「もしかして……2人はあの変わり者のお客様??」


 ミアとジルクは硬直しながら黙っていると、リリアは気に障った事を言ってしまった…と目を泳がせる。


リリア 「ち、違った…?」


 しかし、暫く間が経つとミアとジルクは急に大声で笑いながら口を開く。


ミア 「さすがリリア!分かってしまったのね!さすがだわ!」


ジルク 「私たちの子は天才なのか!!なあ、ミア!」


ミア 「私なんてリリアに逢うためにわざと足に壁をぶつけてしまったわ」


ジルク 「私はリリアに逢うためにわざと重い荷物を持って腰を痛めたんだ!」


 2人はわざとケガをした事を言い争うにように会話をしていたが、リリアには理解が出来ず会話に追い付かなかった。


リリア 「え…なんでわざと…?」


ミア 「可愛い我が娘を見る為よ!!」


ジルク 「可愛い我が娘を見る為だよ!!」


 ミアとジルクはリリアの一目を見るために最初はバレないよう教会から覗き見をしていたが不審者扱いにされ教会から注意されてしまった。


 その後、教会の周りに見張りも配置されてしまったので、次はわざとケガをして変装し、リリアに近寄るため文句をわざと言いリリアに診てもらうように仕組んでいた。


———リリアの両親は極度の親バカだった。

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