第13話 ネイリーの得意事②
ライト (……えっ?)
ライトの手の上にはビリビリに破いた布が糸で繋がれ『ハンカチ』とは大きくかけ離れた物が置かれ思考が停止する。
ネイリー 「ライトにハンカチを作ったのだが、少し精が入ってしまってな」
ネイリーは笑みが零れたまま自信満々に満ち溢れた顔を見せる。ライトはようやく手の上に置かれた物を現実に受け入れると、莫大な情報量が頭の中で駆け巡る。
ライト (え…?何だこれ??今ハンカチって言ったよな??何か俺の知ってるハンカチと違う気がする…。コレは王族や貴族で言うハンカチなのか?え?ハンカチってそもそも何だっけ?)
ネイリー 「これでも刺繍は得意なんだ。そこだけ唯一、女としてアピール出来るな。はは!」
自信満々に話すネイリーだが、莫大な情報が駆け巡るライトには耳に入る余裕も無く無言のまま例の物を見続ける。
ライト (な、何か言わないと!!そうだまずはお礼して何となくフェードアウトしていくんだ!間違えた反応は出来ない。なぜならネイリーの機嫌を悪くしたら……)
ライトは目を上に向け妄想する。
———【妄想】
ライト 「これがハンカチ?ネイリーって刺繍下手くそなんだな~!」
手の上に置かれた物に対してライトは大笑いをする。ネイリーは殺意が湧きライトの顔を思いっ切りぶん殴ると遠くまで吹き飛ばされ死亡した。
ライト・フォーレン
ネイリーの刺繍に対して正直に反応してしまい、16歳で死亡。
—————————
妄想し終えるとライトは顔をブンブンと振る。
ライト (ダメだ!本当の事を言ってしまうと俺の命は無い!!!やっぱ嘘でもお世辞を言うしかない!!)
ライトは心の中で決心すると、顔の筋肉がピクピクしながらも無理やり笑みを作る。
ライト 「ネ、ネイリー。ワザワザアリガトウ」
笑みを作りカタコトの言葉を話すライト。嘘を言うのが大の苦手なライトにとってこれ以上、苦痛なものは無い。
ネイリー 「喜んでくれて嬉しいよ。こんなに時間を掛けて刺繍をしたのは弟のエルダーに初めて作ってあげた時以来だ。その刺繍のマークに一番時間が掛かったんだ」
ネイリーはライトが持つハンカチの1か所を指で差す。ライトがマークを見た途端、更に莫大な情報がプラスされ思考が混乱する。
ライト (この獣人族みたいなヘンテコな顔をしたマークは何だ??やべえ!!詰んだ!!俺の人生、刺繍ごときに最大にして詰んだ!)
無言のまま頭を抱えるとネイリーはライトの顔を覗き込み呟く。
ネイリー 「ん?そのマークに気付かないのか?昨日、お前も見かけただろう?」
ライト (昨日ったらやっぱアレだよな!?アレしか無いよな!?)
『昨日』と言えばやはりアレしか無いだろうと判断し即返答する。
ライト 「ああ!わかった!これ昨日倒した獣人族の『ゴブリン』だろ?」
ようやく莫大な情報量から解放されライトがそう答えた途端、ネイリーの顔から笑みが一瞬で消える。そして、鬼の形相に一変しライトを睨む。
ネイリー 「ライト、冗談はよせ。私があんなヘンテコな顔をした獣人族なんて作るわけないだろう??しかも民をあんな思いさせた奴らだぞ?」
ネイリーの剣幕にライトは焦り、再び莫大な情報量が駆け巡る。
ライト (やべーーー!あんなヘンテコな顔をした獣人族のゴブリンにしか見えないんだっつーのに!!とりあえず話を合わせるんだ!俺!)
ライト 「ア、アハハ……。ジョウダンダヨ」
ライトは顔の筋肉をピクピクしながら笑みを作り、カタコトで返答をする。
ネイリー 「昨日、魔獣ゴブリン討伐の後にグリーン村に寄って行っただろう?その時に沢山の羊が飼育されていたではないか」
ネイリーの言葉にライトはグリーン村の風景が蘇る。緑が広がる中、幾つもの羊が放牧されている光景が浮かびライトはようやく作る事も無い素の顔で反応する。
ライト 「あー!!羊か!」
ネイリー 「全く、冗談もほどほどにしろ。グリーン村の村長に毛糸を譲ってもらったもので作ったんだ」
魔獣ゴブリン討伐後に寄ったグリーン村の村長の家。ネイリーが村長から渋々受け取った色鮮やかな毛糸で、ライトの為にハンカチを作ったの事だった。
ライト (これが羊!?これ羊だったのか!?どうみても獣人族にしかみえねーーー!でもこれを本人に言ってしまったら俺の命は確実に無い!!嘘でも何でも良いから誉め言葉を言うしか無い!)
心の中で決闘した結果。ライトは再び筋肉をピクピクしながら笑みを作る。
ライト 「トッテモ、カワイイネ。オレ、ズットダイジニスルヨ」
ネイリー 「そんなに嬉しかったか!弟のエルダーと同じことを言ってるな!しかし、結構時間が掛かるのでな。また機会があったら作ってやる」
ライト 「ウン、アリガトウ」
ライト (俺の命が持たないから!もう一生作らないでくれーーーー!)
ライトは心の中で叫ぶと、サッとネイリーが作ったハンカチをポケットの中に隠すように入れる。
ライト 「とりあえず、冒険者ギルドに行こうぜ。今日の依頼は何があるかなー?」
ネイリー 「やはりシルバー1以上の依頼を受けたいな」
話題は依頼の件に移行し、ライトの命は無事のまま2人は肩を並べ冒険者ギルドへと向かう。依頼の件で会話を弾ませていると冒険者ギルド前まであっという間に辿り着きドアを開き中へ入る。
メル 「ライト様、ネイリー様!おはよう?こんにちは??いつも朝にいらっしゃるのに今日は遅い時間ですね!」
メルは2人の顔を見た途端、つかさず挨拶をする。
ネイリー 「私が昨日、夜更かしして寝坊したんだ。ライトには待たせてしまった」
メルは頬に手を当てると、ネイリーの薄いピンク色の長い髪、瞳は濃いブルーで強調されているが整った顔立ちにメルはウットリする。
メル 「ネイリー様、夜更かしは美貌に良くないですよ?せっかく綺麗な容姿ですのに。あ…。すみません私王族の方に無礼でしたよね…」
メルは我に返ると、王族に対して『余計な事を言ってしまった!』と反省の表情に変わる。
ネイリー 「身分は気にせず、普段通りで構わない」
ライト (ネイリーが刺繍で作った物の感想に対してはいつもの対応出来ないけどな!!!)
ハンカチの件で莫大な情報量に悩まされていたライトは、ネイリーを横目でバレないよう見つめながら心の中で叫ぶ。
メル 「ネイリー様、ありがとうございます!でもネイリー様は本当にお綺麗ですよ?髪は長いストレートの薄いピンクの髪で目は青色でとっても綺麗です!!身長は高く、理想の体型ですし…。あ、今掲示板の前に居る女の子もお綺麗で…」
メルは話し終えると、掲示板の前に立つ女の子の方へ目線を移す。2人も掲示板前へと目線を動かすとライトは顎に手を当て考え込む。
ライト 「ん?何かアイツ見たことあるな」
ネイリー 「友達か?」
ライトは掲示板前まで駆け寄ると、女の子の肩を叩く。女の子は肩を叩かれると、白い髪とサイドに結んでいる三つ編みをふわっと揺らしながら振り返る。
「はい、何か―――あれ?ライト?」
ライト 「あ!やっぱり!」
ネイリー 「ライト?知ってる人なのか…ん、確かお前は…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます