第8話 ネイリーの過去
———【ネイリー(13歳)】
サファイアローメンの国王である名はメルディルム・サファイアローメンが執務室で自国の大量にある報告書を1枚ずつ目を通していく。
メルディルムは集中し報告書を1枚2枚…と捲っていると、コンコンと叩くノックの音が聞こえ身体がピクッと反応する。
メルディルム 「誰だ?」
ネシウス 「私です。ネシウスです」
瞬きすら惜しい程に集中していたメルディルムは、ようやく報告書から目を離しドア越しでネシウスの声が聞こえる方に視線を移す。
メルディルム 「入れ」
ドアがカチャッと音を鳴らしネシウスは執務室に足を踏み込む。ネシウスはメルディルムの机の上にある大量の報告書に、視線を移すと額に手を当てため息を吐く。
ネシウス 「メルディルム王…また一人で報告書を1枚1枚ずつ拝見していたのですか?少しは下の者に任せて報告を待つだけでも…」
ネシウスの忠告を気にも留めず、メルディルムは再び報告書を手に持ち目を通す。
メルディルム 「実際に報告書に目を通し自分自身も把握しておきたいのだ。要件は何だ?」
ネシウスは報告書を1枚、2枚と捲るメルディルムの顔を見続けていたが、目を逸らし咳払いをする。
ネシウス 「えぇ…。ネイリー様の件についてご報告があります」
報告書に釘付けだったメルディルムの手がピタリと止まり、ようやくネシウスの顔に視線を移す。
メルディルム 「その表情だとネイリーは未だに婚約者が見つからないのか。弟のエルダーは10歳ですぐに見つかったのだが…」
ネシウス 「はい、大変申し上げにくいのですが…。やはり、以前に縁談の最中に暴力を振るってしまった件でネイリー様の評判はあまりよろしくありません。10歳からお見合いをしていますが、昨日の縁談も相手先から断られた…と報告にあります」
メルディルムは机に肘をつき顔を俯けると、重いため息を吐く。執務室に重い空気が漂うが、ネシウスは黙り込み部屋を去る訳にもいかず話を続ける。
ネシウス 「弟のエルダー様は婚約者がすぐに見つかり王宮内でも堂々と立ち振る舞い使用人にも傲慢な態度などもとらず好印象です。ネイリー様がいつも稽古の相手をしていますが連敗中みたいですね。ネイリー様が妬んで八つ当たりをしているのでは…と」
ネシウスの話をメルディルムは机に肘をつき顔を俯けながら無言で聞き続けていた。この沈黙の間はネシウスにとって1秒でも長く感じ、息を呑む。そして、ようやく顔をあげるとメルディルの顔は険しく席から立ち上がる。
メルディルム 「王族である姫が3年が経っても見つからないとは…な。ネシウス、ネイリーとエルダーを玉座の間へ呼べ」
ネシウス 「承知しました」
命令を受け入れると、ネシウスは一礼し、執務室から姿を消す。ネシウスが部屋から去るとメルディルムは席の後ろにある窓から晴天の中、羽ばたく鳥を見つめる。
メルディルム (やはり、ネイリーには―――)
ネシウスに命令を言い渡すと、メルディルムもまた執務室から姿を消し玉座の間へと向かう。
玉座の間へと辿り着くとメルディルムは座り目を閉じ重いため息を吐く。
暫くすると次第に足音が聞こえ、玉座に座っていたメルディルムはようやく閉じていた目を開ける。瞳に映るのは自分の実の娘であるネイリーと息子であるエルダーが急の呼び出しで不思議な顔をしながら片足を折り跪く。
ネイリー 「父上、ネシウスに呼ばれ来ましたが―――何か?」
メルディルムは玉座の肘をつけ手を頬を当てると、無言のままネイリーを見つめる。しかし、無言のままでは会話すら成り立たない状況にメルディルムは息を吐き、頬に当てていた手を離し目を細める。
メルディルム 「ネイリー、お前は時期王の予定だったが時期王はエルダーとする」
跪いていたネイリーは立ち上がり、メルディルムに不服な顔をする。
ネイリー 「何故です!?サファイアローメンは常に先に産まれた者が時期王のはずですが!」
メルディルム 「ネイリー。お前は未だに婚約者が見つからないみたいだな?」
メルディルムの言葉に思い当たるネイリーはハッとする。だが、このまま引き下がる訳にもいかないネイリーは再び不服な顔をメルディルムに見せる。
ネイリー 「それと王位継承は関係ありませ―――」
メルディルム 「ネイリー!お前は王族なのだぞ!王族ならどんな貴族でもお前を婚姻相手として欲しいぐらいの地位だ!これ以上我が国サファイアローメンを恥晒しをしないでくれ!」
ネイリー 「しかし、今までの見合い相手では我が国を良くには―――」
メルディルムに正論を叩き突かれたネイリーは、段々声が小さくなり次第には顔を俯ける。
ネイリー (権力欲しさ故の相手にサファイアローメン国など預けられるものか…)
ネイリー自身はサファイアローメン国を今後のパートナとして『どれだけ良くしていきたいか』と思う相手を要望していたが、今までの見合い相手は王族の気分を損ねないように対応をする貴族か、あるいは権力欲しさゆえの貴族相手ばかりだった。しかし、ネイリーは正義感強さの故に傲慢な貴族には怒りが抑えられず暴力まで振るってしまっていた。
メルディルム 「もういい!お前の良い訳は聞きたくない!時期王はエルダーに決定する!」
跪いていた弟のエルダーも急の決定で、思わず立ち上がりネイリーの顔を見つめる。ネイリーは拳を強く握りしめ顔を俯けているが、涙がポタポタと床に落ちスカートの裾を掴むと素早く自室へと走っていった。
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