第9話 SNSはみんなを平等にしてくれるから
「でも…風見が言うようにSNSってそんなに悪いところばかりでもないと私は思うよ」
そう言った風鈴は、風見にPCの画面を向けた。
「私、ツナちゃんと喋るのって今日が初めてだったんだけどね。でもこんなに仲良くなったよ? ほら」
2本指にて画面をスクロールしていく風鈴。その画面とは、風鈴が夜から朝までかけてずっと行っていた“ツナ”とのやりとりであった。
初めは敬語で話していた2人。アニメの話が中心で、誰が好き? だとかどの場面が良かったか? などを語り合っている。共感を持った意見には絵文字や顔文字の
次第にタメ口で話すようになっていく。アニメの話以外にも、好きな食べ物やアニメ以外の趣味の話、先ほど風鈴が話していたように、ツナは自身の学校生活のことも話していた。数学が難しいだの、先生が面白いだの、夏休みは部活ばかりだのと。
「これは例え話だけどね? もし
「…? どういう、意味だよ」
風見が困惑気味に尋ねると、風鈴は自身の眉を潜めた。
「んと…眠いから頭回んないや…えっと、たとえば自分の声が嫌いな人とか、人の目を見ると緊張しちゃう人って程度に差はあるけど多いと思うの。病気とかで簡単に外に出られない人とか、自分が知られたくないことを抱えている人もいるよね? そういう人って
辿々しく語った風鈴は、風見と同じくその場に立ち上がると、最後にこのように言ったのだった。
「だから、SNSはみんな平等にしてくれるから。私は…好き」
どこか照れ臭そうで、しかしながら全然目を離そうとしない風鈴の表情とは、先ほど語った言葉が確かな本心であることを強く物語っていた。
「……」
「だから好きにパソコンを使わせてーって…そういう下心はあんまりないよ? ほんとなの。でも、見方を変えたらSNSにも良いところって――」
「バイト、バイトの時間だから俺出るわ。昼は昨日の残りが冷蔵庫あるからレンチンしろ」
風鈴が言葉を言い終える前に、そのようにまくし立てた風見。財布とスマホをポケットに突っ込むと、風見は足早に玄関へと向かったのだった。玄関扉を開ける。
「い、いってらっしゃい…」
驚いた声色の風鈴の見送りに、風見は言葉を返す余裕がなかったのだった。
ほどほどに車が通る、幹線道路沿いの道を早歩きにて進んでゆく。いつものようにワイヤレスイヤホンを耳に挿すことはしなかった。
――先ほどの風鈴の言葉が思い出されて、ならない。
「…何も知らないくせによ」
風見は思う。風鈴が話してくれたあの言葉とは、全て事実なのだ。確かにSNSはすごい。利便性は非常に高いし、心の拠り所としての役割だって持っている。風鈴は正しいことを言っていた。そうなのだが……同時に風見は思ってしまった。なんて浅はかなのだろうと。
例えるなら、小さな子供が将来の夢を語るのと似ていた。サッカー選手とか、ケーキ屋さんとか、タレントとか…今だとユーチューバーも多いか? 大人はニコニコと彼らの言葉を聞き、「なれるといいね」と言ってみたりするが、同時に心の奥底では『子供だから』と考えている。
実情を知らないから、良いところだけしか知らないのだから幸せなのだ。言い換えれば、それは浅はかであった。
『もしお前が俺と同じ経験したら、その言葉を同じツラで吐けるのかよ?』
「クソが……!」
思考の一番前に出てきた言葉に頭の血が昇った。怒りの矛先とは風見自身であった。風見は風鈴にソレを危うく言いかけたのだ。咄嗟に家を飛び出すことで、何とか回避出来たものだが。
(でもよ…仕方がねェだろ)
4月から5月にかけての経験。
理不尽に…本当に理不尽に風見は攻撃をされたのだ。誤解なんて言葉じゃとても片付けきれない。SNSという空間の中で、風見は理不尽を経験した。正論を理不尽に聞き入れられなくなるほどの…“理不尽”を経験した。
しばらく歩き続け、現在の勤め先であるスーパーが見えてきた。シフトの時間まであと2時間も暇がある。
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