やる事決め②

 学校を後にした僕達は町に繰り出して夕日でオレンジの色に染められた歩道を歩いていた。葉桜になっている桜並木の下を二人で歩いていたら彼女がおもむろに口を開いてこちらに振り返った。


「ねえ、琴くん。私文化祭が終わるまでは死なないからね」


「……約束出来るの?それ」


「任せておいてよ、約束するよ」


 そう告げられた僕はなんて返したらいいのか分からずに戸惑ってしまう。

 未だに彼女の余命が少ないことを完全には受け止めきれていない。そんな折に言われた言葉は心に重くのしかかって苦しくなる。


 屈託なく約束すると笑う彼女の笑顔が嫌ってほどに眩しくて僕は顔を逸らしてしまう。言葉に他意が無いことはわかっている。それでも、やっぱり亡くなるということを突きつけられてしまうのは辛い。


 頭でいくら理解していても心は理解しない。乖離が激しくて夢ならばいいと思うこともある。けれど、この笑顔は現実に息づいてる彼女だからこそ生み出せるもので何よりの現実の証拠でもある。


「破ったら針千本ね」


「怖いよ、それは。でも、うんいいよ」


 桜が咲いていない葉桜が彼女と見る最後の桜になるのであろう。願わくば、葉桜が紅葉に変わるその瞬間までは始めるその時までは生きていてほしい。独りよがりの願いを胸の奥に秘めて、僕は家に帰った。


「ただいま父さん。今ご飯作るね」


「琴も大変だろう、そう毎日ご飯作ってたら」


「自分の家事の能力上がるし全然大丈夫。それに前までは父さんがやっててくれたんだし、恩返しみたいなものだと思っててよ」


「ほいならテレビでも見ておく」


 家に帰るとトドのようにソファに座っていた父さんが申し訳なさそうな顔をしながらこちらを見ていた。


 息子に何かを任せるというのは父親として申し訳なく思えてしまうのだろう。しかし僕は足が折れている父さんが無理して悪化する方が嫌なので、恩返しということでやっている。


 パジャマに着替える前に手を洗っているとズボンに入れていたスマホが振動する。軽く水を振って、スマホを付けると彼女からのメッセージだった。


『明日夜ご飯食べに行かない?無理だったら無理でいいんだけど、行けたら行こうよ』


『明日か、ちょっと待ってね』


 僕はそう返すとリビングにいる父さんに明日食べに行っていいかを確認すると「おう行ってこい!」と快く了承を貰えた。スマホをもう一度開いて彼女に行けることを伝える。


『本当!?じゃあ、明日七時集合ね!食べに行く場所は学校の近くのファミレスでいい?』


『うん、いいよ』


『分かったー!じゃあ、また明日学校でね!あっ、ちゃんとあそこで待ってるからね来てよ』


『はいはい』


 メッセージを終えて服を着替えて僕は夜ご飯を作りにリビングへ行く。

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