やる事決め①
放課後、僕と彼女は人気が無くなってシーンと静まり返った教室で机をくっつけて向かい合うように座っていた。教室は静まり返っていたけど、外から聴こえてくる部活動生の声と、教室には居ないけど学校に残ってる生徒の声がアンサンブルとなって辺りを賑やかにしていた。
「教室には誰もいないのに賑やかだね」
「皆、帰ったわけじゃないからね。放課後って意外と騒がしいんだよ」
彼女はアンサンブルに耳を傾けながら心地よさそうに言う。太陽の光は電気が付いてる教室を無駄に明るくして、構想ノートを輝かしていた。
僕と彼女がわざわざ放課後まで残っている理由は、文化祭で披露する物語を決めるためだった。早く決めたいと僕が言ったから彼女が「ならさ、放課後も残ってしようよ」と言ったのがことの発端だった。
なのに、もう三十分は経とうとしているのにノートは真っ白で何も決まってなかった。どんなジャンルにするかすら決まってなかった。このままじゃ放課後まで残っている意味がない。
「それより、早くやること決めちゃおう」
「そうだね〜。うーん何しようか」
机に頬杖をつきながら彼女は外を呆然と見ながら考える素振りをする。
頭の中には燦然と輝くアイデアはなんかなくて、一寸先には闇が広がっている。泥沼に足を取られたようで、前に進めなくてただ時間だけが過ぎていく。
「あっ、私達の日々を物語するのはどうかな?」
名案を思いついたと言わんばかりに目を輝かせているが、身内しか盛り上がれない提案なので僕は却下する。
「それは僕達しか盛り上がれないから却下で」
彼女は頬を膨らませながら、却下された事にぶつぶつと文句を言っていた。しかし、現状では何も決まっていないのでこのままいけば彼女の案を採択せざるを得なくなってしまう。それだけは避けないといけない。
「それじゃあ、琴くんはどんな物語を書きたいの?」
僕が書きたい物語。彼女の命が空前の灯火だと知って、希望を捨てずに生きている彼女の足を引っ張りたくなくて、一度は捨てたペンを拾い直して物語を書くことを決めた。そんな僕が書きたい物語ってなんなんだろう。
「分からない。僕が書きたいものってなんだろう」
「てことは、二人ともしたい物語が無いってことだね。困ったね。うーん、とりあえず遊びまくってしたい物語が降りてくるのを待とう!」
「早く決めるために残ったのに、遅く決まることが決定するなんてね」
「本当だね。残った意味無くなっちゃったね」
僕達が放課後に残った意味は無くなったけど、悪い気はしなかった。むしろ、安心している自分もいた。教室を後にして靴箱に向かっていたら、あんなに輝いていた太陽はオレンジに染められて夕日に変わっていた。
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