活動開始②

「文化祭のことなんだけどさ」


「……君の口から文化祭のことが出てくるなんて昨日のことは夢じゃなかったんだね」


 彼女は驚いた様子で言う。誘われても頑固として断っていたから当然の反応なのだうか。しかし、夢だと思われていたことは少しだけ悲しく思う。


「夢じゃないよ、バリバリ現実だよ。それでさ、文化祭のことなんだけど先生に伝える夏休み明けまでには、どんな物語を作るか決めておきたいんだ」


「本格的にやるつもりだね」


「やるからにはね。僕はあのステージで地獄を幾度も見てきたから自分がそうなる訳にはいかない」


 幾度もなく見てきた地獄の雰囲気に風景。あれを作り出してしまうのが僕だとしたら耐えられないし、それは彼女にふさわしいステージではない。相応しいのは歓声と拍手が巻き起こる嵐だ。嵐を起こすためには寝る間も惜しんでネタを煮詰めるしかない。出来ることはそれぐらいで過去を見ないと決めたんだから彼女の死に囚われていてはいけない、足を止めてしまったらそれこそ本末転倒なのだから。


「ん〜物語かあ。冒険活劇ファンタジー?それとも純愛?」


「純愛物語は僕の経験が乏しすぎていいものが出来る気がしない。冒険活劇ファンタジーの方はまだ希望がある」


「なら、冒険活劇ファンタジーにする?」


「いや、待って。月海さんは何がしたいとかあるの?ジャンルとか」


「ない!これといってないんだよねえ」


 僕の一存だけで決めてしまったら面白くないため、彼女のやりたいジャンルも聞くが体をくねらせながら無いと言う。

 二人の意見が合致したジャンルをしたいのだが、片方が無いとなったならばかなりの困りものだ。出てくるのを待つのもいいが、物語を書くのは一朝一夕なものでは無い。構想を練って、主要キャラクターを書いて、伏線なども考えてとやる事が多い。待っていたならば、いい物語をかける可能性がグンと下がってしまう。


 ジェットコースターのように可能性が勝手に上がってくれるならばいくらでも待つが、これは下降していく一方でそう長くは待てない。


「なるべく早く決めよう」


「そうだね。私は物語読むだけだし、作り担当は琴くんだもんね」


 文化祭の話をしていたら学校に着いていた。授業が始まるが、頭の中にあったのは文化祭の事と物語のことだった。授業には全く身が入らずに上の空で聞いていて、当てられた時にはチンケな回答を連発してしまった。そんな僕を彼女はクスクスと笑いながら見ていた。


「琴くん、変なことばっか言ってどうしたの?」


 昼休みになって屋上で彼女に聞かれる。彼女は別に心配で聞いてるような感じではなかった。今も顔には笑みが貼られて口角は上がっていて、変なことを言う僕が面白おかしくて聞いてるのだろう。


「文化祭のこと色々考えてたら授業に身が入らなくてさ。駄目だね、一つのことに集中すると他が疎かになっちゃうや」


「あ〜それ分かるかも。私も布団にくるまってたらぼーっとしちゃうからさ、それ分かるよ」


「いや、それはなんか違う気がする。眠くなってるだけじゃない?それ」


「……確かにそうかもしれない。あっ、さっきさやりたい物語がないってさ私言ったよね?」


「うん、言ってたよ」


「ならさ、夏休み入ってすぐにどっか遊びに行こう!ていうか一週間遊び続けよう!」


「また、これ急に突拍子もないことを」


 子供の思いつきのようなことを彼女は言い出す。夏休みまでは秒読みだが、一週間も遊び続けたのなら流石にお金が無くなり、遊べなくなるのがオチになってしまう現実的な話ではないが、遊び続けるのはアイデアが浮かんでいいかもしれない。


「でも、まあいいかもしれないね。お金が許す限りはどっかへ遠くへ行くのもアリだね」


「でしょ?じゃ、決定ね!はい、決定!」


「なんて強引な。まあ、いいよ、そうしようか」


 こうして半ば強引に夏休みが始まって一週間のスケジュールが決まった。

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