開花
活動開始①
母さんの部屋を後にした僕は彼女の病気をスマホで調べていた。十八病、聞いた事のない病名で、世界に存在しているのがあまりにも信じられない病状。検索エンジンにかけてみると、色々な情報が出てくる。
僕はその一つにあった十八病の娘を持った母の日記というのを押す。母の心境と病気について詳しく書かれていた。
ここに書かれていることをまとめると、十八病とは、現代医学では原因も発症する理由も未知の領域で解明するには二百年以上はかかると言われてる奇病らしい。
発症した者は必ず十八歳で死ぬが、亡くなる時間はまばらであるという研究結果があるらしい。ある者は十二時になった途端に亡くなり、ある者は日を跨ぐ寸前に亡くなりと規則性がない。そして亡くなる時の苦しみ方も人によって違うらしい。苦しんで亡くなる者、笑って亡くなる者。そして、光になって亡くなる者。
僕は光になって亡くなったというところに目を付けた。光になって亡くなった者は口から光る何かを吐いたと記述されている。
彼女は口から花を吐いたと言っていた。光る何かを吐き出した者は星になって亡くなった。つまり、彼女も花になって亡くなる可能性があるということ。
「……まあ、まだ分からないか」
僕は彼女が亡くなることから目を離したくなってスマホを閉じる。告白された余命宣告、初めてではなかったけど慣れるようなものでは無い。
凛々しくて風鈴のように音を反響させて周りを明るくする彼女からは、考えられないような一面を今日は見た。涙をボロボロとこぼして鼻水をこれでもかと垂れして凛々しさの欠片も無かった。
でも、あれが本当の彼女なのだろう。いつ来るか分からない死の恐怖に脅えているんだ、怖いに決まっている。それを感じさせないで前を向いて一歩を確実に踏み出している彼女は凄いと思う。
「どんな物語を書こうかな……」
そんな彼女にピッタシの物語を僕は書けるだろうか。皆に伝えられるだろうか、地獄にならないだろうか。んな事を考えていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
雀の声がアラームになって僕は目を覚ました。陽射しをカーテンが遮って部屋はちょっと薄暗かった。
寝ぼけている目を覚ますために洗面所で冷水を顔にかける。ぶるっと体が身震いをする。タオルで水滴を拭いて、リビングで朝食を食べた後に歯を磨く。シワが出来てしまった制服を少しだけシワ伸ばしをして腕を通す。
「父さん、今日は先に行くね」
「おう、わかった。気をつけて行けよ」
いつもは父さんが先に出ていくけど、今日は彼女とあの木陰で待ち合わせをしているため遅刻する訳には行かない。通学鞄を脇に抱えて靴を履いて扉を開ける。太陽が目をつんざいて、手で覆い隠す。
通学路には同じ学校生徒で埋め尽くされていた。話し声で溢れた通学路を歩いて行くと、あの木陰の所で彼女は待っていた。
「あ、琴くん!」
「お待たせ、早く行こうか。学校遅刻する」
「まだまだ時間あるよ、大丈夫だよ。そんな焦んなくても」
「……それもそうか。ゆっくり歩いていこうか」
「うん!」
こうして彼女の横を歩けるのはいつまで可能なんだろうか。いつこの日常は壊れてしまうのだろうか。雲が流れて、川が流れて、太陽が月に変わってそんな当たり前の日常はいつまで続くんだろうか。
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