君の話⑥
明日が土曜日と知らなかった、日本ではない場所からやってきた彼女からメッセージが来る。
『明日どうしようか〜?琴くん行きたい場所とかある?』
『これといってないかな』
『てことは私任せ?』
『まあ、そうなるね。行きたい場所は無いし』
明日急に遊ぼうと言われて行きたい場所があるはずがなくて、少々不安だが全てを彼女に委ねる。
もしかしたら、明日滝行に連れて行かれるかもしれない。登山かもしれない。はたまたは、と次から次へとアクティブな遊びが思考の川を泳ぎ回っている。
『うーん。あっ、あそこ行ってみようよ。最近出来たって言うアウトレット』
『あぁ、あそこね。いいよ、僕も行ったことなかったし。行ってみよう』
つい最近、といっても一か月前なのだが地域最大級アウトレットと銘打たれた大型商業施設がオープンして、話題の的となっていた。昔からある商業施設とも連絡通路を設けて、行き来が簡単にするともいわれていた。
僕の住んでいる町はいかんせん遊ぶところが少ないので、中高生は遊ぶ場所が増えると胸を期待に踊らせていた。しかし、ここ最近はめっきりと話を聞かくなった。一か月もすれば、ほとぼりが冷めるのは当たり前だが、遊ぶ事が大好きなクラスメイトの口から、アウトレットの名前が出てこないので頻繁に遊びに行っても楽しくない場所の可能性が高い、と思いながらも彼女の提案に乗る。
『それじゃあ、待ち合わせはアウトレットの最寄り駅でいい?』
『うん、いいよ』
『よし、それじゃあ私は明日に備えてグングン寝るよ!おやすみ!』
『独特な表現の仕方だね。おやすみ』
グングン寝るとは一体なんだろう、と思いながら布団に入って明日に備えて寝る。
そして次の日、僕はある問題に直面していた。服装という問題だ。女子と二人きりでどこかに行くというのに、ダサい格好で行ったら幻滅されてしまうかもしれない。というか、横を歩く人間がダサい格好をしていたら嫌だろう、普通に。
でも、僕は男友達と遊びに行くこともない。どんな服装で行ったらいいか迷っていると扉が勢い良く開いた。扉の前に松葉杖をついて、黒いグラサンをかけた父さんが立っていた。
「どうしたの?父さん」
「息子よ!どうしたのは息子の方じゃないか!」
「な、何を言ってるの?」
朝八時から妙なテンションで、僕の部屋に突撃してきた父さんは訳の分からんことをほざいている。
「分かるぞ!息子よ!デートの服装に困っているのだろう!」
「友達と遊びに行くだけだよ。デートじゃない」
「なら、なんで!彼氏のデート前に着ていく服を悩む漫画の彼女のように持っている服を床に並べているのかね!」
「例えがよく分からないけど、こうしたほうが組み合わせがしやすいでしょ」
「ふむ!それもそうだ!!」
「いつまでそのキャラ続けるの?」
「やめ時を見失った!このまま行く!」
「そ、そう」
そしてやめ時を見失って妙なキャラを演じる父さんと服を選んだ結果、胸ポケットが付いている無地のシンプルな半袖シャツに、黒の短パン、斜めがけのショルダーバックと落ち着いてなんとも言えない無難な格好になった。
「普通すぎない?」
「普通が一番!さぁ!行け!息子よ!あ、待て!息子よ!これをもっていけ!」
父さんはそういうと僕の手に一万円を手渡してくる。
「こんなにいらないよ」
「喝!!持っていけ!というかこのキャラきついから早く行ってくれ!頼む!」
「そっちが本音でしょ。でも、ありがとう。行ってくるね」
「おう!行ってこい!」
そうして僕は家を出て彼女との約束の場所に行く。モノレールに十五分揺られた後に電車に乗り換えアウトレットの最寄り駅まで行く。
電車を降りて駅のホームから出ると、雪のように白い丈長のワンピースに、小さいバックを首からかけている彼女か待っていた。太陽に映える彼女は周りをキョロキョロと見渡していた。僕を探しているようだ。
「あ、琴くん!」
「お待たせ。待った?」
「いいや〜全然〜」
「そう、じゃっ行こうか」
「遊ぶぞ〜!」
僕達はエスカレーターに乗ってアウトレットの入口に行く。
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