君の話⑦
エスカレーターを降りると、人でごった返していなくてアウトレット内はがらんどうとしていた。チラホラと人は見えるが、凄い多いという訳では無い。
そんな楽しくない場所なんだと僕は思っていたけど、横にいる彼女の顔はロウソクの炎のようにメラメラと輝いていた。
「うわあ!見て!人が少ない!思い切り遊べるね!」
人が少ないという思考回路は彼女の頭の中には存在していないようだ。こんなにも目を輝かせて、遊園地に来た子供のようだ。
そんな彼女を見ていたら僕の心も段々と浮ついてくる。エンジンがかかり始め、心は全速力で楽しむ方向へ走り始める。
「どこから行こうか?」
「ゲームセンター行く?」
「なにか取れるかな〜」
ゲームセンターに入ると、ガチャガチャと色々な音が耳に入り込んでくる。
彼女はあるUFOキャッチャーに目を釘付けにされていた。それは、今やっている大人気アニメのぬいぐるみだった。手のひらよりもちょっと大きめのぬいぐるみは、とてもじゃないがとれそうには見えない。
「あれ!欲しい!」
「でも、取れそうにないよ」
「関係ない、取れるまでやれば」
財布から百円を取り出し彼女はぬいぐるみを取ろうと奮闘する。百円、また百円とどんどんと百円が吸い込まれていくのを、僕は横から呆然と眺めていた。
「取れない〜!琴くんも一回だけやってよ」
「まあ、一回だけなら」
彼女があんだけやっても取れなかったUFOキャッチャーをするのは正直言えばしたくはなかったが、しないのも違う気がしたので財布から百円を取りだして入れる。
アームがぬいぐるみを掴んだ。どうせ落とすだろうと思っていたけど、アームは出口の方へどんどんと近づいて行く。そして、ポトンとぬいぐるみを景品口に落とした。
「と、取れた」
取れるとはこれぽっちも思っていなかったので、ド肝を抜かれて取れたぬいぐるみを凝視する。それは彼女も同じようだった。
「と、取れたね。すごいね、琴くん」
「あげるよ、これ。僕、いらないし」
「え、いいの!?やったー!」
僕は彼女に今しがた取ったばっかりのぬいぐるみをあげる。見てもいないアニメキャラクターのぬいぐるみを手元に持っていても、持ち腐れなので好きな彼女にあげてしまう方がいい。
彼女はぬいぐるみを天高く掲げてクルクルとまわりながら喜ぶ。
「へへ、本当にありがとう」
頬を緩めて笑う彼女に僕の心はまた跳ねる。平常を装って言葉を返すけど、内心は平常所かドタバタビックトラブルだ。
ぬいぐるみを取った僕と彼女はアウトレット内をぶらぶらと散策しながら、次に行く場所を決めていた。
「どこ行こうか?次」
「意外と服屋さんが多いね。このアウトレット」
遊ぶ所が多いと思っていたアウトレットの実情は服屋が多いショッピングモールだった。中高生が遊ぶには少し、いやかなりつまらない場所だ。父さん世代達に取っては楽しい場所かもしれない。
「私、服には興味無いからなあ〜」
「もう少し遊ぶところ増やしてほしいよね」
「だよね〜。これじゃあいつか廃れちゃうよ」
僕がおじいさんになる頃には潰れてしまっているだろうか。元々このアウトレットは潰れてしまった遊園地の跡地に建設されたもので、地元民からの期待値は大きかった。
でも、中身がこれじゃあ中高生の期待のハードルは越えられなかったことだろう。
「うーん、思ってたよりしょぼくて困ってる。あ、そうだ。今十時ぐらいだよね?」
「だね。そんぐらい」
「ならさ、横の博物館行かない?生命の博物館」
「アウトレットつまんないし、そっち行こうか」
生命の博物館は恐竜の標本や、昔の時代を再現した展示を主にやっている博物館だ。たまに、特別展として、うなぎの歴史やトイレの歴史などを開催していることがある。
僕と彼女はアウトレットを後にして、生命の博物館へと向かう。
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