君の話②
自分の部屋で一息ついてからお風呂を洗って、お湯に浸かる。
湯の中に顔ごと沈める。水がまとわりつく。ぶくぶくと息を吐く。泡になって水面の上に浮き上がる。
今日病院で見た彼女のそっくりさんは本当に見間違えだったのだろうか。去っていく足音もちゃんと聞こえた気がしたけど。でも、まあ気にしていても本当のことはわからないか。二十分ぐらい入ってお風呂から上がる。
三日後、医者から家に帰っていいと言われた父さんは松葉杖をつきながら家に帰って来る。迎えに行くと言ったが、一人で帰ると言って聞かないので迎えに行くのはやめることにした。
足の怪我の完治までは大体一ヶ月ちょっとらしい。その間仕事は休むらしい。いつも働き詰めなので、ゆっくりしていてほしい。
「いやあ、久しぶりの家だなあ!」
「あんま無理しないでよ。まだ足は完治してないんだからさ。洗濯物とかはするからさ、父さんはゆっくりしておいて」
「ありがとうな。完治したら焼肉食いに行くか!」
「うん」
僕は父さんが帰ってきた日から彼女と毎日通話する日々を送っていた。他愛もない話をして、時々話すことがなくなって彼女も僕も黙って一時間が過ぎていたり。する意味が無いような通話を続けていた。
でも、それは心地よくて川のせせらぎを聞いてるようでこの一瞬だけは嫌なことを忘れることが出来た。元々悩みがなかったように感じられて、ちょうどいいお湯に浸かっているような感じ。
「あ、そういえば明日から君が学校だね」
「やっと学校いけるよー。長かった〜」
「体調は大丈夫なの?」
「うん。全然大丈夫だよ。ねね、明日あそこで待っていい、琴くんのこと?」
あそことはきっとあの木陰の下のこと。彼女とぶつかって友達になるきっかけが出来た場所。思えば、あそこでぶつかってなければ友達になってなかったらと思うと、人との出会いは本当に運命なんだな。
「いいよ」
「本当!?断られるかと思ってたから嬉しいや」
「なんでや」
「だって、恥ずかしいとか言いそうだったし」
「うーん。それ言われたら何も言えねえや……」
「でしょ?でも、良かった。じゃあ、明日あの場所でね!」
彼女の嬉しそうな声を聞いて僕も嬉しくなる。でもそれがバレないようにして、心に栓をして溢れないようにする。バレたら絶対何か言われてしまうから、僕は声のトーンを下げる。
「うん、また明日あの場所で」
「……うん。またあの場所でね。じゃ、バイバイ!」
「バイバイ。また明日」
電話が切れる。カーテンで隠れて薄らと見えてる満月を見つめる。月明かりが顔を照らす。今、どんな表情をしているだろうか。なんで、こんなにも嬉しいのだろうか。
僕はこの感情の答えをずっと探している。けど、道をどれだけ歩いても見つからない。何も無い荒野を歩いているようで、真っ暗で途方もない。
明日、彼女が一週間ぶりに学校に来る。きっと、富澤も喜ぶことだろう。
ずっと、今日は月海さんは?と聞かれていたから。日に日に富澤の顔から余裕が無くなっていくのが見て分かっていた。
それほどに彼女を心配していたのだがら、もしかしたら膝をついて泣き崩れるかもしれない。
嬉しさと楽しみを胸に抱えて夢の世界にダイブをする。
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