カレーライス②

 カレーライスを食べ終わった僕は食器を水に付けて自分の部屋に帰る。充電をしていたスマホを見ると、彼女からのメッセージが何件も来ていた。


 家に着いたよ、ご飯食べた?など些細なことが送られてきていた。


『食べたよ。家にも帰り着いた、そっちはご飯は食べたの?』


 すぐには返事は返ってこなかった。十分しても、返事が来ないのでお風呂に行こうとした時スマホが振動する。彼女からのメッセージだ。


『今食べてきた〜!今日のご飯はね、肉じゃがだったんだ〜、美味しかった。琴くんは何食べたの?』


 一枚の写真が送られてくる。さっき彼女が言っていた肉じゃがだ。じゃがいもとにんじんの色合いが食欲をそそる。


『美味しそうだね。僕はカレーライスだよ。写真はないけどね』


『えぇ〜!私に見せようとか思わなかったの!?』


『なんで逆にそう思ったの?』


『なんとなく?』


『なんて、適当な』


 見せるためにわざわざカレーライスの写真を撮ろうなんて思わない。容量の圧迫になる。

 しかし、どんな思考を歩いてきたらあんな言葉が出てくるのだろうか。不思議でならない。

 その後、彼女はお風呂に行くと言ってメッセージを辞めた。僕もちょうど良かったので、お風呂に行く。

 夏なので湯船には浸からずにシャワーでお風呂をすませる。水で濡れた髪の毛を簡単に拭いて、リビングにお茶を飲みに行く。


「おぉ〜琴お風呂出たか」


「父さん入るの?お風呂」


「そりゃあ、入るよ」


 リビングでは父さんが寝っ転がりながらテレビを見ていた。机の上にはピーナッツが置かれていた。冷蔵庫から僕はお茶を取りだして、カラカラに乾いた砂漠にオアシスを与える。冷蔵庫にお茶を片付けて、冷凍庫アイスを取り出してから自分の部屋に帰る。

 手に持ったアイスを僕は見つめる。スマホを手に取って、写真を一枚パシャリ。撮った写真を彼女に送る。


『アイス』


 質素な三文字と写真を送ってアイスを食べ始める。彼女からの返事は直ぐに来た。


『あっ、今度はちゃんと写真送ってくれたんだね。君なんだかんだ優しい』


『送らないと文句言われそうだったから』


『私のことなんだと思ってるの?』


『それも言ったら文句言われそうだから言わないでおく』


『文句言われるようなこと思ってるの?ひっどいなあ〜。泣いちゃうよ私』


『どうぞ、お好きに』


 彼女とメッセージをすることに集中しすぎて、アイスがスマホの画面にポタリと落ちる。ティッシュを取り、画面をゴシゴシ拭く。


「急に電話かけてくるなんて琴くんも隅に置けないね?」


「……え?」


 聞こるはずのない彼女の声が聞こえ、僕はびっくりする。スマホの画面には月海さんと表示されている。

 おおよそ、ティッシュで画面を拭いている時に、間違ってかけてしまったのだろう。なんてことをしてくれたんだ、僕の指は。自分の指を見つめて、自分の指を呪う。


「何驚いてるのさ、琴くんがかけてきたんじゃないんか。そんなに私と話したかったの?」


「いや、アイスが零れたから画面を拭いてたんだ」


「ふーん、じゃあこれ間違えなんだ」


「そうなるね」


「でも、いいや。ちょっと話そうよ」


「いいよ。間違えてかけちゃったのはこっちだし」


 僕は電話をかける時に鳴る音が聞こえなかったので、彼女が相当なスピードで出たことを察する。しかし、それを口に出すとまた何か言われそうだったので言葉のバルブを固く締める。

 そこから僕達は三十分ぐらい喋った後に、通話を切る。


「じゃあ、私そろそろ寝るね。おやすみ」


「うん、おやすみ」


「また明日学校でね」


 そう言って電話は切れた。

 僕はスマホを投げ捨てて、ベットに横になる。アイスは既に食べ終わっていた。棒だけになったアイスを見て、僕はただ呆然と天井を見上げる。彼女とのメッセージ画面の履歴には、三十分通話したことが記憶されている。

 また明日、その言葉を聞いた僕は謎の高揚感に襲われていた。

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