放課後①

 彼女と弁当を屋上で食べて、腹が脹れた僕は教室に帰る。

 屋上で彼女と他愛もない話をしていたので、教室に着いた時には、休み時間はあと五分となっていた。急いで、次の授業の準備をする。


「ねね、琴くん。お腹いっぱいになったらさ、眠くなるよね?」


「なるけどさ、月海さん二限目のときに寝てたじゃん。気持ちよさそうに」


「いや、人間だから何回も眠くなるよ。それに琴くんに途中で起こされたしね」


「さあ?なんのことやら」


 次の授業の準備をしていると、彼女がおもむろに話しかけてくる。

 僕は動かしていた手を止めて、彼女の言葉に耳を傾ける。彼女は、腹が脹れたら眠くなる、と言っている。分からなくもないが、彼女のことだ。授業の事など気にせず寝るのだろう。消しゴムを投げたことを言われたが、聞かなかったことにしてとぼける。


「とぼけても無駄だ。この消しゴムが物言わぬ証拠だよ」


「……降参だ」


「はい、私の勝ち」


 腰に手を当てて勝ち誇る彼女を見ると、降参したことを後悔する。

 しかし、後悔をする暇もなく、授業の開始を告げるチャイムが教室のスピーカーなら鳴り響く。

 さっきまで勝ち誇っていた彼女も椅子に座って授業を受ける姿勢をする。僕はどうせすぐにふざけだすと思っていたのに、彼女は予想と違い真面目に授業を聞いていた。

 四限目までは必ずと言っていいほどにふざけていたのだが、なんの風の吹き回しなのだろうか。五限目になった途端に真面目になる。


 しかし、僕としても静かに授業を受けられるのはありがたいことだ。五限目は何も無く、刻々と時間が過ぎていき終わりのチャイムが鳴った。


「私が真面目に授業受けててびっくりしてたでしょ?」


「そりゃね。四限までは必ずふざけていた月海さんが、急に背筋を伸ばして授業を真面目に聞いていたんだからびっくりもするよ」


「なんか心外だなあ。私も真面目に授業を受けることはあるよ?」


 チャイムが鳴って先生が教室を後にすると彼女が話しかけてきた。

 お腹が脹れて眠くなると言っていた彼女は必死に睡魔に抗ったのだろうか。それとも、僕を驚かすためだけに授業を真面目に受けたのだろうか。僕が正直な気持ちを言うと、彼女は露骨に肩を落としていた。


「次の授業もちゃんと受けるの?」


「ううん、寝るよ」


「なんて、最低な宣言なんだ」


 彼女は当たり前のように寝ると宣言をする。ここまで清々しく最低な宣言が出来るとは、やはり彼女のメンタルは並大抵じゃない。アスフォルト、いやダイヤモンド並の強さだ。

 次の授業が開始すると、彼女は宣言通りすやすやと眠りに入っていた。


 僕は気に留めることもなく、起こすようなこともせずに授業を淡々と受ける。先生も彼女を起こすようなことはせずに、授業が終わる五分前に彼女は目を覚ました。起きた彼女は欠伸をしながら背伸びをする。それから彼女は五分だけ授業を受けて、六限目は終わった。


「ふぁぁ〜、よく寝たよ」


「本当によく寝てたね。四十五分間も寝てるなんて」


「寝る子は育つからよく寝ることにしてるんだ」


「何言ってんだが」

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